大連立、谷垣氏は好感触だったのに… 好機逃した首相
民主、自民の二大政党による大連立構想は、菅直人首相にとっては超党派の「救国内閣」で国難に当たるという大義名分がありながらも、稚拙な手法と読みの甘さで好機を逃した。ただ自民党も政局優先の対応は世論の反発を招きかねない。大連立は震災復興の底流でくすぶり続ける。
首相の読み違いは11日の大震災発生直後から始まった。
自民党本部では谷垣禎一総裁が石原伸晃幹事長ら幹部に「相当な規模での被災者・復旧対応になる。協力していこう」と指示した。その夜に首相が与野党の党首を集めた場でも、谷垣氏は「何でも相談してほしい」と声をかけた。
この日は首相が在日外国人から政治献金を受けていた疑いが浮上したばかりだったが、自民党は政治休戦を決める。16日の各党・政府震災対策合同会議では大震災の特命担当相の設置を提案。閣僚枠を3人増やす民主党の呼びかけにも真っ先に賛同した。
首相のもとには「谷垣氏が『党首会談で閣内協力を求められるかと思った』と漏らしている」との情報も入っていた。自民党を取り込めるのではないか――。野党・民主党の代表だった1998年の金融国会で「政局にしない」とした自らの態度を期待したのかもしれない。意を強くした首相は「谷垣さんとじっくり話したい」と側近に命じた。
首相側近は18日に「首相と2人だけでひそかに会えないか」と電話で谷垣氏側に打診したところ好感触を得た。首相には都合のよい知らせばかりだった。翌日、首相は谷垣氏に入閣を要請するため「官邸に来てほしい」と頼んだ。しかし、谷垣氏は「電話にしてほしい」と素っ気なく、首相が提示した副総理・震災復興相のポストも拒否した。
「トップ同士でやるのは順序が逆だ」。谷垣氏は要請を断った理由をそう説明した。石原氏は民主党の岡田克也幹事長に「私は聞いていなかった」と抗議。両党のパイプ役として頻繁に連絡を取り合う民主党の仙谷由人代表代行と自民党の大島理森副総裁にも寝耳に水だった。首相の独断専行に加え、大連立のにおいをかぎつけた自民党議員たちが谷垣氏を押さえにかかった、と同氏に近い議員は語る。
仮に谷垣氏が大連立に前向きだったとしても、大仕掛けをトップダウンで決めるには首相も谷垣氏もあまりに力不足だ。首相には過信があった。
自民党内には「早期の衆院解散は絶望的。連立参加以外に早期の政権復帰の道はない」との声もある。谷垣氏側近は「直ちに断ったのは首相の働きかけ方と時期が理由」と打ち明ける。22日の民主党常任幹事会。川内博史氏に「(大連立の)考え方はまだ生きているのか」と聞かれた岡田氏はこう答えた。「首相の中ではそうだと思います」