職場トイレ制限訴訟 最高裁判決の要旨・補足意見
性同一性障害の経済産業省職員に対する女性用トイレの使用制限を違法とした11日の最高裁判決の要旨は次の通り。
【事実関係】
原告は生物学的には男性だが1999年ごろ性同一性障害と診断され、2008年ごろから女性として私生活を送るようになった。健康上の理由から性別適合手術は受けていない。
10年7月、原告の性同一性障害に関する同僚向け説明会が開かれた。担当職員には、原告が勤務先フロアの女性用トイレを使うことに、数人の女性職員が違和感を抱いているように見えた。原告には勤務先とその上下の階の女性用トイレ使用は認めないこととした。その後、他の職員とトラブルは生じていない。原告は13年、女性用トイレを自由に使わせるよう行政措置を求めたが人事院は15年5月、認められないと判定した。
【法廷意見】
原告は自認する性別と異なる男性用トイレか、離れた階の女性用トイレを使わざるを得ず、日常的に相応の不利益を受けている。一方、同僚への説明会後、原告のトイレ使用を巡るトラブルはない。人事院判定までの間、見直しが検討されたことはうかがわれない。
遅くとも人事院判定の時点で、原告が女性用トイレを自由に使うことによるトラブルは想定しづらく、原告に不利益を甘受させるだけの具体的事情は見当たらなかった。人事院の判断は他の職員への配慮を過度に重視し、原告の不利益を不当に軽視するもので、著しく妥当性を欠き違法だ。
【宇賀克也裁判官の補足意見】
性別適合手術は生命・健康への危険を伴う。受けていなくても可能な限り性自認を尊重して対応すべきだ。
同僚の女性職員が原告と同じトイレを使うことに抱く違和感・羞恥心は、トランスジェンダーへの理解を増進する研修で相当程度拭えるはずだ。経産省はそうした取り組みをしないまま約5年が経過した。多様性を尊重する共生社会の実現に向けた取り組みが十分だったとは言えない。
【長嶺安政裁判官の補足意見】
経産省の処遇は、急な状況変化に伴う混乱を避ける激変緩和措置とみることができ、説明会の時点では一定の合理性があったと考えられる。しかし同省には、この処遇を必要に応じ見直す責務があった。自認する性別に即し社会生活を送ることは重要な利益だ。
【渡辺恵理子、林道晴両裁判官の補足意見】
経産省は説明会で女性職員が違和感を抱いているように「見えた」ことを理由に、原告の女性用トイレ使用を一部禁止し、その後も維持した。合理性を欠くことは明らかだ。激変緩和措置として一部禁止するとしても、女性職員らの理解を得るよう努め、次第に軽減・解除すべきだった。
【今崎幸彦裁判長の補足意見】
今回のような事例で、他の職員の理解を得るためどのような形で、どの程度の内容を伝えるのかといった具体論は、プライバシー保護との慎重な衡量が求められ、難しい判断を求められる。
事情はさまざまで一律の解決策にはなじまない。現時点では本人の要望と他の職員の意見をよく聴取し、最適な解決策を探る以外にない。今後、事案のさらなる積み重ねを通じ、標準的な扱いや指針、基準が形作られることに期待したい。
今回の判決は不特定多数が使う公共施設の使用の在り方に触れるものではない。それは機会を改めて議論されるべきだ。〔共同〕