就活新日程、早期化に拍車も 「専門人材」3カ月前倒し
政府は10日、就職活動の日程ルールを見直し、専門性の高い人材の選考開始を大学3年生終了前の春休みに前倒しすると発表した。現在の大学2年生から適用し、現行から3カ月ほど早める。「専門」の定義は企業任せだ。あいまいなままでは就活の早期化に拍車をかけることになる。
10日に関係省庁連絡会議を開き、経済界や大学側と合意した。内々定を得た学生に就活終了を強要しないことを求めることも決めた。
現在は選考活動は大学4年生の6月以降、内定は10月以降と定めている。専門人材は人工知能(AI)やデータ分析などにたけた学生を想定する。25年春入社の現在の大学3年生までは現行ルールを維持する。
経団連と国公私立大などでつくる産学協議会がまとめた「専門活用型インターンシップ(就業体験)」の要件を満たすことを前倒しの条件とした。少なくとも2週間の実施を求める。
専門人材の選考開始を春休みとしたのは学業の優先を求める大学への配慮だった。経団連幹部は「外資系が就活ルールを守っておらず、日程の弾力化は評価したい」と語る。
対象となる学生についてはあいまいな部分が多い。政府の合意や産学協議会によるインターンシップの類型は「専門性」の具体的な要件を明らかにしていない。
学生にとっては早い段階で能力を企業にアピールする機会が広がる。企業側が学生の専門のあり方を明示して見極めなければ就職活動が早期化するだけとなる。
また経団連の会員企業で、職務内容を明確にして成果で評価する「ジョブ型採用」を新卒で実施する企業は4%にも満たない。学生の専門性について企業側が受け皿となるポストを用意できるかは不透明な部分がある。
政府は10日、経済団体に現3年生の就活に関する要請も実施した。①3月以降の広報活動開始や6月以降の選考開始などの順守②5日以上のインターンシップであれば、選考での活用を可能とする③内々定後に就活終了を強要する「オワハラ」の防止――を申し入れた。
就活ルールを担当する小倉将信少子化相は同日、経団連の十倉雅和会長らと面会し順守を求めた。「(産学協議会の)要件を満たさないものはインターンシップと呼ばないことをお願いする」と述べた。毎年実施する要請に、オワハラ防止を明記するのは初めてという。
こうした要請に強制力はない。人材獲得競争の激化で「青田買い」などの早期の採用活動や内定が横行し、形骸化が進んできた。
内閣府の21年度調査では学生が採用目的の説明会に参加した時期は「解禁前の2月時点」が6割に上った。
KDDIは25年度入社の新卒から、選考直結型のインターンシップを開始。ディー・エヌ・エー(DeNA)も、この3月にエンジニア職などで早期選考を始めた。
連合の22年調査では、学生の14.5%が就活終了の強要を経験したと回答した。就活の早期化とオワハラはセットで進行しており、政府の要請は後手に回っている。
日本型の雇用は新卒者をまとめて採用し、幅広い業務をこなせるように育ててきた。デジタル化などの波に対応できていない側面がある。生産性の高い分野に人材を移動しやすくする採用の多様化が必要になる。