テスラCEO、ヒト型ロボット披露 将来価格290万円未満
【シリコンバレー=白石武志】米電気自動車(EV)大手のテスラは9月30日、ヒト型ロボット「オプティマス」の試作機を披露した。世界の人口減に警鐘を鳴らすイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)の指揮で2021年に開発が始まった。マスク氏は将来的な価格は2万ドル(約290万円)未満を想定する。自社のEV工場などで活用して労働力不足の解消につなげる構想を示した。
「きょうの実演のために、開発チームは信じられないほどの仕事をなし遂げた」。テスラが30日夕方に米カリフォルニア州パロアルト市の研究開発拠点で開いた人工知能(AI)イベント「AIデー」。登壇したマスク氏はヒト型ロボットの開発表明から約1年で試作機の完成にこぎ着けた技術陣をねぎらった。
試作したオプティマスの高さは170センチメートル程度で、重さは73キログラム。EVの運転支援システムで使うAIや半導体などの部品を活用した。人体の構造を模した手足の関節を持ち、荷物の運搬などの作業をこなすことができる。
21年8月に公開したCG(コンピューターグラフィックス)映像で示したなめらかな外観とは異なり、試作機は関節などの機械部品がむき出しで、歩き方はまだぎこちない。技術を完成域に高めるにはさらに時間がかかるという。
人手不足解決をパーパスに
03年創業のテスラは石油依存社会からの脱却を使命に掲げ、EVや太陽光パネル、蓄電システムなどの普及に取り組んできた。ESG(環境・社会・企業統治)投資を追い風にグリーンテクノロジーの代表銘柄となり、30日終値ベースの時価総額は約8300億ドル(約120兆円)とトヨタ自動車の約4倍にのぼる。
マスク氏はかねて世界の出生率の低下傾向に危機感を示し、人口減が人類にとって最大のリスクになると指摘してきた。30日のイベントでは安価なロボットの供給は「文明にとって根本的な変革になる」と強調。「豊かで貧困のない未来」の実現をテスラの新たなパーパス(存在意義)に加える考えを示した。
これまで、ヒト型ロボットの普及に成功した事例は乏しい。1986年に基礎研究を始めたホンダは18年に「アシモ」の次期モデルの開発を取りやめたと報じられた。テスラは数百万台のオプティマスを生産する方針を示したが、コスト削減など普及に向けたハードルは高い。
採用・就職の国際コンサルティング会社ユニバーサムによると、22年の米学生の人気就職先ランキングでテスラは「工学系」では2位だが、「計算機科学系」では5位にとどまった。AI分野ではグーグルやアップル、マイクロソフトなどのIT(情報技術)大手を追う立場で、優秀な人材の確保も課題となる。
テスラが30日に開いたイベントの会場には、AI分野の研究者や学生らを多数招待した。地元スタンフォード大学で計算機科学を学ぶ学生5人組はマスク氏との対面に興奮を隠せない様子で会場内に入っていった。抜群の知名度を持つトップ自ら若者らと交流し、最先端の「頭脳」の獲得に力を入れる。
懐疑論と期待がなお交錯
文明レベルの危機を嗅ぎとり、社会に大胆な解決策を示して資金や人材を集め、技術革新のスピードを高めるのがマスク流の起業術だ。解決すべき課題が困難で巨大であればあるほど、ビジネスの潜在的な成長性も大きくなる。
ヒト型ロボットの実用化にはなお懐疑論が根強いが、実現できるとすればマスク氏のような起業家精神にあふれたリスクテーカーが不可欠だ。30日のイベントに参加した米テキサス大学オースティン校のルイス・センティス教授は「AIの実現は困難だが、安価に供給できれば物流や介護などの分野での応用が見込める」と話す。
マスク氏はヒト型ロボット事業について「最終的に自動車事業よりも価値があることが分かるだろう」と予告する。まだ大幅な改良の余地があるとするオプティマスの商用化の成否は、テスラがグリーンテクノロジー銘柄の枠を超えて成長を遂げられるかどうかの試金石となる。
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