「コンビニジム」で突如国内首位 RIZAPは黒字化視野
日本の最強銘柄 大解剖(5)
フィットネス業界で「大逆転」が起きた。高級パーソナルトレーニングジム「RIZAP」で知られるRIZAPグループが2022年、従来と真逆な新業態の低料金ジム「chocoZAP(チョコザップ)」の出店を開始。そこから2年足らずで会員数は112万人を超え、国内首位に躍り出たのだ。
フィットネス参加率が約3%と低かった日本で、いきなり人口の1%近い会員数。「しかもこの間、他のジムの売り上げは落ちていません。全くの新規層を開拓できた結果です」(社長の瀬戸健さん)。つまりこの短期間に同社は、3%だった市場を4%に広げてしまったことになる。
【本連載の過去記事】
低コスト運営の秘密
チョコザップの特徴は、月2980円(税別)という低料金だけではない。「新規層には運動への強い目的意識は存在しません。彼らに来てもらうなら、とにかく気軽に、普段の生活と変わらない意識で使える必要があります」
そこでチョコザップは、着替えもせずに利用する前提のジムになった。初心者でも扱えるマシンに特化。さらにはセルフエステやセルフネイルなど、幅広いサービスを気軽に使える店とした。
低コストも特徴だ。店舗に常駐スタッフはなく、AIカメラが店舗を常時監視。わずかな人数で全店を監視できる。「利用者が動かないなどの異常を検知するとアラートが出て、遠隔監視センターのスタッフが確認。急病なら救急車を直接呼びます。マシンの故障対応なら、近くのRIZAPの店舗から人が向かう場合もあります」
通常のジムなら、売上高比の人件費率は3割程度だが、チョコザップは3%だ。清掃やマシン点検を利用者自身に担ってもらう仕組みを試すなど、さらなるコストダウンに向けて試行錯誤する。
売上高比のコストを下げられるのは、売上高が高いからでもある。「一般的なジムと比べて面積当たりの会員数は4倍、売上高は2倍です。広告で会員を増やすノウハウが確立しており、自信を持って広告宣伝費をかけられます」
そこまで1店舗に会員を詰め込んだら不満が出ないだろうか。まず着替え不要のチョコザップは、1人当たりの滞在時間が短い。さらに、利用者が特定の時間帯に集中しないよう、アプリで混雑状況を見える化している。「利用者は自発的に混雑を回避してくれます。追加料金なしで複数店舗を使えるため、空いている店に適宜移動してくれる人も多いです」
低コスト経営が効いて、チョコザップ事業は23年11月から早くも単月黒字に。24年3月期はまだ投資負担で赤字だが、赤字幅は期初予想より縮小した。25年3月期は黒字化と復配を視野に入れる。
コンビニのようなモデル
成長余地はどうか。まず、出店余地はまだ大きいと見る。「ライト層に『近さ』は重要で、利用者の6割が店舗の1km圏内に居住。都心でもまだ店舗が足りません。27年3月期には現在の約1300店から3800店まで増やします」
小商圏でも利用者を確保するため、サービスの多様化も進める。「コンビニのように幅広いサービスを詰め込み、利用動向に応じてそれを入れ替えていくイメージです。あらゆるサービスに気軽に触れられる『エントリーポイント』として進化させていきたい」
新たな収益源として広告ビジネスも始めた。利用者ごとの行動履歴をIDで管理し、最適化された広告の表示や、試供品の提供が行える。既存事業のRIZAPとの連携もスタートし、既にRIZAPの新規会員の15%程度がチョコザップ経由だという。
「少人数で回せるチョコザップは、人手不足になるほど強みを発揮するはずです」。当面は業績変化率の高い局面が続きそうだ。
(臼田正彦)
[日経マネー2024年5月号の記事を再構成]
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