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日本よ、「B級観光」から脱せよ アレックス・カー氏

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初来日から60年弱。日本の魅力や観光業界の変遷(へんせん)を追い続けてきた東洋文化研究家、アレックス・カー氏は現在の日本の様子をどう捉えるのか。「日本はいつまでも留年だ」。そんな言葉に込められた意味とは。

――カーさんは日本に来られてから60年近くになります。日本について書かれた著書には、観光が「量」から「質」に転換することが大事だと説かれています。日本の観光産業にはどのような意識が必要なのでしょうか。

「日本はある意味で、安売り観光に落ちてしまったね。僕は『B級観光』って言ってるんだよ(笑)。つまらないビジネスホテル、つまらないものが適当に出される温泉料理。『安ければいい』っていう悪循環に入ってきちゃって、B級で満足したわけです。2019年までは海外向けの観光の多くもB級だったんですね」

「僕が言うA級っていうのは、何も富裕層向けではないんだよ。僕は富裕層だけに向けた観光は反対だ、本当に。というのも、そもそも富裕層の数が少ないし、かつ一晩5万円とか10万円とかっていうホテルは不自然でしょう」

――ではA級の定義とはなんでしょうか。

「例えば、1万5000円から2万、3万円くらいの値段で、それなりにきれいな施設に泊まれるのが『質がいい』ということですよ。質の良い宿泊、質の良い料理、それがA級なんだ」

「A級的なモノやサービスを求めている日本人も増えてきた。それが観光地にあるなら人は喜んで来てくれるよ。でも残念ながら提供されていない。だから『A級観光を目指そうよ』というのが僕の持論です。安いものが価値だっていうのが一つの固定観念になってしまっているのは残念ですね」

――どうすればA級への意識が生まれるのでしょうか。

「勉強ですね。各地を回って、いいところを見る。『うちの徳島県の祖谷の宿に来いよ!』と言いたい(笑)。あるいは、少し奮発してでも一晩くらい星野リゾートに泊まってみようと。そうすると目が肥えます。いいものはこういうものだよ、っていうね」

「B級しか知らないデザイナーや事業者は結局、B級のことしかできないんですね。だから、お金を出して自分で見て、経験して、インバウンド(訪日外国人)だけではなくて、日本人がどういうものを求めているかを知る」

「僕はよく『現代人』という言葉を使います。価値観というものに日本人も外国人もないんだ。皆、『現代人』なんです。だから日本人が喜ぶかっこいい新しいタイプの喫茶店は、外国人にとってもかっこいい。案外、分かっている人が少ないけど、今の日本人が何を求めているかを知ることが大事なんですよ」

――新型コロナウイルス禍で観光を巡る状況は大きく変わりました。日本が本来持っていた観光における地域としての強みや魅力は、コロナ禍を経ても維持されているのでしょうか。

「もちろんそうですよ。日本は世界ではかなり人気なんですね。最近、世界で一番行きたい国はどこかを聞いたアンケートで日本は第1位になりました。だから『日本に行きたい』という潜在的なニーズは大きいんですよ」

――日本の何が世界で受け入れられているんでしょうか。

「いくつかあるんですけれども、一つはやっぱり日本の文化ですね。日本には宗教や芸能、芸術といったものがしっかり残っています。生き生きと残っている国はアジアの中でも少ないんですよ。ソフトタッチでユーザーフレンドリーな社会なんですな。人間関係に安定したムードがある。『おもてなし精神』とよくいわれるけれど、ホテルや旅館、温泉に行ったら客へのサービスがすごく気持ちよく受けられる。これは他の国ではなかなかできない経験ですね」

――カーさんが日本に来られてからの間、そうした魅力は変わらず根付いて残っているとお感じですか。

「いや、変わらずとは言えないですよ(笑)。色々変わってきたし、薄められてきて、『危ないな』とか『今後はどうなのかな』という心配の種もあるんですよ」

「一番懸念しているのが日本の自然環境ですね。あるいは町並みの景観など。そういうところは50数年で大きな打撃を受けました。ですから、今まだ残っているものをいかに残すかというのは、日本の大きな課題ですね」

「それらは観光にも関わってきます。ただただニコニコしておもてなし精神があればいいってわけじゃないんですね。やっぱり町並みや山、川、森がきれいでなければ、いつか国としての魅力は減っていくと思いますね」

――今あるものを残し、それを観光資源として使い続けていくと。

「そうです。残念ながら、それが最近は重視されていないと思うんですね。『昔からあったものだ。当然今でもある』とあぐらをかいている。でもみるみるうちに失われているのが現実なんです」

観光は「夢を売る産業」

――日々の生活を送る中でも、もう少し観光だとか自然だとか、そうしたものへの意識を持たないといけないということですね。

「もちろんそうです。それがね、先進国なんだよ。自然を大切にする。伝統的な町並みを大事にしながら、現代人としてその中で生活していく。それが健全な先進国。逆にそういうものに無関心でバンバン壊していくのが、(経済成長に)必死な発展途上国なんですよ」

「日本はその意味で(途上国を)卒業していない気がして、いつまでも留年なんだ。経済大国になったんだから、そろそろ自然を大切にしよう。先祖が残してくれた素晴らしい町並みや景観を大事にしようと思うことは当然なんですね。多分、先進国の中でそう考えていないのが日本だけなんだよ」

「やっぱり観光は『夢を売る産業』だと思うんですよ。国土が汚されてお粗末にされると、日本の魅力が減ってしまう。それでも世界の客は日本に来たいのか、っていう疑問があるんですね。今のところは『大丈夫』とは言えないまでも、まだ魅力的な国としては見られているけどね。でもちょっと危ない」

自分で自分の首を絞めている日本

――日本が観光という「夢を売る産業」を強くしていく上でのポテンシャルはあるのでしょうか。逆にその限界もありますか。

「限界というのは別にないと思います。格別、何かこれが問題だっていうようなことはないんですね。ただね、現状はインバウンドがほぼゼロなんですね。6月に『インバウンド解禁』などと話題になりましたけど、『日本は外国人をほぼ入れさせない』というのが現実なんですね」(編集注:カー氏へのインタビューは8月下旬に実施)

「ガイド付きツアーでないといけない。宿泊先の部屋から出てはいけない。入国の手続きも大変。世論調査を見ても、水際対策継続への賛成がいまだに根強い。『国民感覚としてインバウンド反対』という現実も含めて、本格的にインバウンドが戻ってくるのは数年先になるんじゃないですか」

――観光産業の復活も、今や遠のいてしまったと。

「自分で自分の首を絞めているようなものだね。7~8月にかけて日本国内では新型コロナの第7波で1日に20万人くらい新規感染者が出ていた。いわば感染大国なのに、ワクチンを3回受けてPCR検査もクリアした人たちが海外から来るのを怖がっている。それは意味が分からない。本当に海外から持ち込まれるコロナが怖いのであれば、何で日本人は自由に海外に行けて自由に日本に戻れるのか。こうした矛盾が世界における日本の評判を落としているわけです」

――インバウンドが自由に入国できる環境になったとしても、評判が落ちたせいで訪日ニーズも減ってしまうのでしょうか。

「既に日本は諦めて別の国・地域に行っている人は多いんですよ。僕の友人の何人かも、行きたかった日本は諦めてタイに行った。非常に喜んでタイのファンになっていましたよ」

「もう一つ、中国は日本に"お中元"をプレゼントしたと個人的に思うんです。(ゼロコロナ政策で)中国を完全に閉鎖したのだから。19年時点で中国は約6500万人の観光客を受け入れていた。日本の倍。つまり、日本にとっては今が大チャンスなのです。それなのに、大きな経済チャンスを逃していて……。もう理解ができない」

インバウンド発の"文化革命"

――先ほどの世論調査も含め、国民自身もそこに気づかないといけないわけですね。

「気づかない理由の一つが、メディアのせいでもあるんですよ。人数はごくわずかなのに、海外に行った日本人が感染して帰国したら『海外は怖い』と報じてね。もっと落ち着いて現実を伝えないといけないのに、残念ながら日本のメディアはその義務を怠っているような気がしています」

――不安感情をあおってしまっていると。

「そう。もう一つは高齢化。4人に1人が高齢者で、年金暮らしの彼らにとっては観光は自分たちの生活に関係ない。若い人はあまり選挙に行かないし、観光に無関心な高齢者の思いが政策に大きく反映されると思うんですね。本当は政治家にもそれを踏まえた上で政策を判断してもらいたいんですけどね。その両方の理由で、世論を水際対策緩和の方向へ持って行くのはなかなか大変だと思います」

――コロナ禍3年目に入り、日本国内の観光事業者における取り組みで変化が出てきたと感じる点はありますか。

「国内旅行者向けの新しい試みは確実に出てきています。例えば、自然体験というか、グランピングのようなものが増えてきたと聞きますね。ちょっとかっこいいホテルや建物も増えてきていますよ」

「近年の旅行ブームで一つ言えるのが、オーバーツーリズムについて。マイナス面もあったけど、見逃しちゃいけないポイントもあると思うんですね」

「コロナ前の話ですけど、インバウンドによる経済面でのメリットばかりが論じられていますよね。消費額がどのくらいだったとか。僕はむしろ日本にとっては、文化的な影響が非常に大きかったと思うんです」

――どういうものなんでしょうか。

「大勢の外国人が来るまでは、京町家や古民家は日本の不動産事業者や住民にとって『ジャンク』だった。ボロ屋で、お金さえあればそれを片付けて壊したい、とね。でも、外国人が入ってきて『古い家や町並みには価値がある』との認識が広がった。それはインバウンドのもたらした文化的影響だと思います」

「かっこいいホテルや喫茶店、レストランが増えてきたのもインバウンドの影響。海外のデザイナーや設計士らが日本に入ってきたことで、ショックを受けた日本のデザイナーらが技術や観念を学ぶようになった」

――日本人が今まで気づかなかった日本の良さを、海外の方々が気づかせてくれたのですね。

「そう。つまり『文化革命』ですよ。それはコロナ禍でも続いています。面白い喫茶店をつくろうとか、古い家を画廊や宿にしようといった日本の若手は増えていますから。今インバウンドはいないけど、価値観が変わったんです」

「ただ、とても気になるのは、観光産業から労働者が離れていること。転職が非常にしやすい時代になってきたので、地方の観光産業は人手不足ですよ。私たちの祖谷でも大変です」

「元からそうだったけど今はとても深刻で、インバウンドが活発になっても戻ってこないかもしれない。特に若い人たちにとって『観光産業が不安定な仕事だ』という見方が強くなってきた。インバウンドがほぼゼロという状態が長く続くと、観光客が戻ってきた時には大変なピンチになると思います」

――その処方箋は。

「(国を)開けばいいんだ。それだけ。それだけです。そうしないとどうにもならない。客が来ないと商売はやっていけない。そうすると働く人が減るのは当然の話。既にだいぶピンチになってきていて、今後が心配ですね」

(日経ビジネス 生田弦己)

[日経ビジネス電子版 2022年9月21日の記事を再構成]

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