G7首脳宣言「台湾海峡の安定重要」、2年連続明記
【エルマウ=坂口幸裕、鳳山太成】主要7カ国首脳会議(G7サミット)が28日に採択した首脳宣言で「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、両岸問題の平和的解決を促す」と記した。台湾海峡に言及するのは2年連続で、2021年にG7首脳の宣言で初めて盛った文言を踏襲した。
G7は宣言で中国が軍事的威圧を続ける東・南シナ海の現状に懸念を表明した。「緊張を増大させる力や威圧によるいかなる一方的な現状変更の試みにも強く反対する」と明記した。
台湾周辺や南シナ海では偶発的な衝突が起きる懸念が強まっている。中国軍は台湾周辺で軍事演習を常態化させ、米軍は対抗措置として台湾海峡に艦船を派遣している。
首脳宣言では中国に対し、ウクライナからの撤退をロシアに働きかけるよう要求した。日米欧はロシアによるウクライナ侵攻を非難しない中国の姿勢を批判してきた。
対中課題、積み残し ウクライナ問題を優先
21年は中国への対応が最大の焦点だったが、今回は足元のウクライナ問題を最優先せざるを得なかった。サプライチェーン(供給網)や産業補助金など中国問題の具体策では課題を積み残した。
国有企業の優遇や巨額の産業補助金など「不透明で市場をゆがめる中国の介入」と認識したうえで協調して対処すると強調。新疆ウイグル自治区の少数民族への人権侵害について「強制労働が主な懸念」と明示し、中国に人権と自由を尊重するよう求めた。
長期的な視点で中国を最大の競争相手とみなす米国や、隣国として多くの火種を抱える日本は今回のG7サミットで中国問題に焦点を当てようと苦心した。
バイデン米大統領はサミット初日の26日、低・中所得国のインフラ開発を支援する「グローバル・インフラ投資パートナーシップ(PGII)」の発足を表明した。「我々がやることは、各国が共有した理念に基づくもので根本的に異なる」と述べ、中国の広域経済圏構想「一帯一路」への対抗意識を鮮明にした。
岸田文雄首相は、対立する国家に貿易制限などを科す中国の行動を念頭に「経済的威圧にG7が中核となって明確な立場を示すべきだ」と強調した。経済安全保障の連携強化を訴えた首相の発言に、複数の首脳から「非常に重要」との反応があったという。
G7首脳宣言の調整にあたる米政府高官は記者団に「ロシアのウクライナ侵攻によって中国への関心が薄れたのではなく、むしろ逆だ」と述べた。中国が台湾に一方的な行動を仕掛けるリスクを再認識し、対応を一段と強化するよう各国に働きかけた。
ただウクライナ問題を最優先した今回のサミットでは、前回2021年のサミットよりも中国問題に関する具体策を議論する時間が減った。
半導体など戦略物資で中国に依存しない供給網の構築を巡っては、首脳宣言で脆弱で目詰まりが起きやすい部分を特定するなど「協力を拡大する」とした。実際には日米欧で工場の誘致競争が起きている。
最先端半導体の9割を生産する台湾で有事となれば、自動車やIT(情報技術)機器など世界の供給網への影響は計り知れない。ロシアの10倍の国内総生産(GDP)を持つ中国に大規模な制裁を科せば、日米欧が浴びる返り血は対ロシアの比ではない。
秋の中間選挙を見据えるバイデン米政権は、高インフレに対処するため対中制裁関税の引き下げを検討する。サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は27日、数週間以内に米中首脳の電話協議を開く可能性を示した。米国自身も対中姿勢が定まらない状況で、新たな策を打ち出す余裕は乏しかった。
G7サミット(主要7カ国首脳会議)が2023年5月19~21日に広島市で開催。会議の議題や各国首脳の動きなど最新ニュースをまとめました。