競泳・池江選手、「すごく幸せ」充実の涙 五輪決勝
白血病による長期療養を乗り越え、復活した池江璃花子選手(21)の五輪挑戦が終わった。1日の競泳女子400メートルメドレーリレー決勝は8位。「一度は諦めかけた五輪で決勝の舞台に立てた。すごい幸せ」。メダルこそ逃したが、今大会は計3種目に出場し、涙ながらも充実した表情を浮かべた。
試合前、他の選手がウオーミングアップをするなか、静かに目を閉じて集中した様子の池江選手。泳ぎ切った後は笑顔で最終泳者を迎えながらも、あふれ出る涙を止めることができなかった。
「一度は諦めかけた東京五輪の決勝の舞台に立てた。すごい幸せ」。白血病発覚からわずか2年半。この大会に出るために、厳しいリハビリにも耐えてきた。「またここに戻ってくることができて本当にうれしい」と語った。
「驚異の早さで復帰できたのは強い精神力があるからこそ」。小学校の6年間、指導した東京ドルフィンクラブ(東京・江戸川)の清水桂コーチ(46)は賛辞を贈る。
2019年末、池江選手からかかってきた電話が忘れられない。「もしもし。今からクラブに行きまーす」。入院中だと思っていた清水さんが驚くと「退院しました」と元気そうな声が返ってきた。
間もなく訪れた池江選手。細くなった体に「スーパーモデルみたい」と声をかけると「そう。このジーンズ今しか入らないの」といつもの笑顔を見せた。
18年アジア大会で日本人初の6冠に輝いた池江選手は19年2月に白血病と判明し、入院した。抗がん剤治療の副作用で食事が喉を通らないこともあり、翌月にツイッターで「思ってたより、数十倍、数百倍、数千倍しんどいです」とつづった。
「璃花子から『しんどい』という言葉を聞いたことはなかった。よほど大変なんだろう」。弱音を吐く姿を見たことがなかっただけに、闘病生活のつらさを思いやった。
小学生のころ、練習で目標タイムを切れず、泳ぎ終えた池江選手を叱ったことがある。泣き出す子も多い中、プールの中から動じない目線で見返してきた。「何事も引きずらない精神面の強さは当時から抜きんでていた」と振り返る。
退院から約3カ月後の20年3月にプールでの練習を再開。6月には清水さんに「白血病の発覚前より(精神的にも肉体的にも)強くなったと思う」と語った。瞬く間に第一線に復帰し、東京五輪の代表入りを決めてみせた。
清水さんは、池江選手が小学校低学年の時に描いた絵を大切に保管している。外国人選手を差し置いて表彰台のトップに立ち、金メダルを首にかける少女。絵の下には「おリンピックでゆうしょうした!」と書き添えられている。
描かれた夢の実現は先延ばしとなったが、絶望的とみられていた五輪に出場を果たし、決勝の舞台で泳ぎ切った。「璃花子の新たな物語は始まったばかり。これからも水泳界を引っ張って」