米軍、ワクチン接種拒否が3分の1 抑止力に影
【ワシントン=中村亮】米軍で新型コロナウイルスワクチンの接種が伸び悩んでいる。ワクチンの提供を受けた米兵のうち3分の1が接種を拒否した。米兵は長期間にわたり共同生活を送る場合が多く、集団感染が起きやすい。集団感染で部隊が機能不全に陥れば、米軍による抑止力に影を落としかねない。
米軍のジェフ・タリアフェロ統合参謀本部作戦副部長は17日、下院軍事委員会の公聴会で、ワクチンの提供を受けた米兵のうち接種を受け入れたのは3分の2にとどまると証言した。初期段階のデータに基づく数値だと説明した。
陸軍軍医のエドワード・ベイリー氏は接種率が3割にとどまる部隊があり「どのようにワクチン接種を促すことができるのか頭を悩ましている」と述べた。南部ノースカロライナ州のある基地では接種率が約6割と説明したが「最前線の隊員に望む水準に達していない」と危機感を示した。
国防総省のカービー報道官は米兵の接種拒否について「オースティン国防長官は懸念しているが、個人の判断だとも理解している」と説明した。国防総省は米食品医薬品局(FDA)による緊急使用許可に基づいてワクチンが提供されている間は、接種を強制することは法的に難しいとみる。今夏までに米兵のワクチン接種を完了したいと説明している。
米兵全体の接種意欲は一般国民と大きく変わらない。米調査会社ギャラップが2月に発表した一般の米国人を対象にした調査によると、「ワクチン接種に同意する」と回答したのは71%だった。
それでも米軍が危機感を強めるのは、米兵の生活環境にある。米国内の基地でも共同生活を送り、原子力潜水艦や空母で任務を始めると数カ月から1年程度にわたってさらに閉鎖された空間で過ごす。訓練中はマスク着用や社会的距離(ソーシャルディスタンス)の確保といった予防策を講じにくく、集団感染のリスクが高いとされる。
2020年春にはインド太平洋地域を航行していた原子力空母セオドア・ルーズベルトで乗組員4800人のうち約3割が感染した。空母は米領グアムに寄港し、隊員の治療や自主隔離のため任務を事実上停止。中国に対する抑止力低下につながりかねないとの指摘が出た。同時期にはルーズベルトを含めて少なくとも4つの空母で新型コロナの感染者が見つかり、米軍に危機感が広がった。
米軍は接種率を引き上げるためのインセンティブも用意する。米メディアによると、米国の在欧州陸軍は部隊の接種率が70%になれば自主隔離期間を2週間から5日間に短くする案を検討しているという。駐留先の国の同意を条件とする。米軍には新型コロナによって重症化する可能性が比較的低い若年層が多く、コロナのリスクについて理解を広めることも接種率向上のカギだと米軍はみている。
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