プリン買収でGoogle参入 モバイル決済、乱戦模様
米グーグルが日本で送金・決済事業に本格参入する。13日にスマートフォン決済のpring(プリン、東京・港)を買収することで主要株主と合意した。スマホ決済を自社グループで展開し、キャッシュレス決済の普及が遅れる日本の需要を取り込む。一方、プライバシー保護などに伴う規制強化が足かせとなる可能性もある。
13日、プリンの株主であるメタップス、ミロク情報サービス、日本瓦斯(ニチガス)がグーグルへの売却を正式に発表した。買収額は非公表。メタップスはプリン株の譲渡価格が約49億円と公表した。少数株主を含めた株式の譲渡価格は計100億円程度だが、これにプリン社員らが保有するストックオプション(新株予約権)や、買収に伴うプレミアム(上乗せ幅)を加味した「取得総額は200億円程度」(交渉関係者)とみられる。
プリンは2017年にみずほ銀行なども共同出資して設立したスタートアップ企業。グーグルはプリンを買収することで資金移動業者として登録する同社のネットワークを生かし、日本の銀行との連携を深める狙いがある。
日本はキャッシュレス決済の普及が遅れており、開拓の余地が大きいと判断したとみられる。ネット企業や通信大手の相次ぐ参入で、20年のQRコード決済の取扱高は19年比4倍の4.2兆円と過去最高を更新した。ただ、クレジットカードなどを含む全体の比率は3割に満たない。7~9割に上る韓国や中国を依然として大きく下回る。
日本では現在も顧客獲得を優先した大型還元が続き、体力勝負の様相を呈する。フリマアプリのメルカリが20年1月、経営難に陥った新興のオリガミを買収。4000万人超が登録するPayPay(ペイペイ)も、21年3月期の営業損益は726億円の赤字だった。還元競争が長引けば収益化への道が遠のく。各社は決済以外の融資や保険など金融サービスを拡充して収益化を急いでいる。
ここに資本力と技術力が強みのグーグルが参入することで競争が一段と激しくなる可能性がある。日本で22年をめどに始める送金・決済事業の詳細は明らかになっていないが、米国で20年に刷新したスマホ決済「グーグルペイ」を念頭に置いているようだ。
例えば、利用者は家族や知人の電話番号などをアプリに登録すると、チャットで連絡を取り合うように手軽に送金できる。受け取ったお金を店頭や電子商取引(EC)店舗などの支払いに使える。「お金のコミュニケーションアプリ」をうたうプリンと共通する部分が多い。
単純な決済機能にはとどまらないのが強みだ。グーグルの地図機能と連動して利用者にあわせ加盟店からの特典や関連情報を表示。支出管理機能は銀行口座だけでなく、グーグルのメールサービス「Gメール」や撮影したレシートの支払い明細を集約できる。強みの検索やAI技術を生かし、金融関連機能を広げる可能性がある。
米国ではアップルの基本ソフト(OS)「iOS」にも対応させ、シェアを広げている。送金決済を展開するインドでは「市場を独占していた最大手のペイティーエムを脅かす存在になっている」(ベンチャーキャピタル関係者)。小口決済インフラを使った取引ではグーグルペイのシェアは35%と、ペイティーエムの11%を超える。
ただ、技術力と資金力のあるグーグルでも金融事業では一筋縄にはいかないとの見方もある。日本のスマホ決済は巨大IT企業にとっても鬼門だ。米アマゾン・ドット・コムも決済サービス「アマゾンペイ」を展開しているが存在感は小さい。ペイペイは3000人規模の人員を投入し、加盟店を328万カ所以上に広げた。
データを巡る懸念もある。グーグルは「決済に関する個人情報はネット広告には使わない」と説明している。スンダー・ピチャイ最高経営責任者(CEO)は「当社は個人情報を売るような行為はしない」と説明してきたが、プライバシー問題が注目される場面がたびたびある。こうした企業イメージが金融分野などに進出する際の妨げになる可能性がある。
(駿河翼、シリコンバレー=奥平和行)