東南アジア各地で米中「論争」 南シナ海巡る対立激化で
【ヤンゴン=新田裕一】東南アジアで米国と中国の出先による「論争」が激しくなってきた。米国が過剰なインフラ融資や主権侵害を非難し、中国が反論するのが基本構図。背景には、この地域が面する南シナ海の「航行の自由」を巡る米中の対立激化がありそうだ。
駐ミャンマーのシブレー米臨時代理大使は18日の現地紙への寄稿で「中国は近隣国の民主主義を弾圧し、主権を侵害している」と批判した。中国が南シナ海のほぼ全域で主権を主張し、香港の民主化勢力を圧迫している現状を示した。
中国の広域経済圏構想「一帯一路」に基づくミャンマーのインフラ整備への融資を指して「過大な借金を負わせ、(建設した施設の)管轄権を奪い取る」と主張した。
一方、在ミャンマーの中国大使館は19日、シブレー氏の指摘が「自己中心的だ」という内容の長文の反論をウェブサイトに掲載した。「(ミャンマーの)主権を侵害しているのは米国ではないか」と指摘。ミャンマー国軍によるイスラム系少数民族ロヒンギャ迫害を米国が非難する行為は他国への「干渉」だと記す。
タイではディサンブリ米大使が14日の声明で「各国が新型コロナウイルス対策に取り組む最中に中国は南シナ海での権益拡大を狙う」と訴えた。中国大使館は声明で「米国は南シナ海と関係がない」と反発した。フィリピンの米大使は15日、ベトナムの米大使は20日に、それぞれ現地紙への寄稿で中国を非難した。
一連の応酬の前の13日にはポンペオ米国務長官が声明で、南シナ海の大半に関する中国の権益を「完全に違法だ」と断定した。南シナ海は、中国が絶対に放棄しない核心的利益の一つ。中東から石油や天然ガスを安全に運ぶシーレーン(海上交通路)の要衝だ。この海域での中国の利権を米国が否定したことで、両国の対立は「新たな段階に進んだ」(外交関係者)とみられている。