使用済みおむつ、新品に ユニ・チャームが22年発売
ユニ・チャームは22日、使用済みの紙おむつを新たな紙おむつに再生する事業を始めると発表した。回収品から原料のパルプを取り出して再び紙おむつを生産し、2022年に発売する。こうした紙おむつの「水平リサイクル」は世界初という。消費者や投資家が環境対応の取り組みなどで企業を選別する「ESG(環境・社会・企業統治)」の流れに対応する。
ユニ・チャームの新事業は自治体と組み、使用済みの紙おむつを回収する。20年度中にまず都内で試験的に始める計画で、提携する自治体を今後詰める。回収品は同社のリサイクル設備でパルプを取り出し、新たな商品に再利用する。30年までに全国10カ所以上で同様の設備を設ける計画だ。
再生紙おむつは22年に発売を予定する。「ムーニー」など同社の既存品とは異なるブランドで販売し、リサイクル商品であることを前面に打ち出す。価格は既存品と同程度に設定するという。
リサイクル前と同じ商品に再生する水平リサイクルは、紙おむつでは進んでこなかった。使用済み商品のパルプから完全に排せつ物を取り除くのが難しかったほか、水分を含むため処分時は重さが3~4倍になるなど、個別回収がしにくかったためだ。
オゾンで滅菌処理
ユニ・チャームは使用済み商品を破砕し、取り出したパルプをオゾンで滅菌し、新品のパルプと同等の品質に戻す技術を開発した。特許を取得済みで、厚生労働省のリサイクルの基準もクリアした。個別回収についても、16年以降、鹿児島県で実証実験を進めてノウハウを蓄積してきた。
ユニ・チャームは紙おむつで国内最大手。同事業は19年12月期の連結売上高7142億円の約6割を占める主力だ。ベビー用おむつの世界シェアでは、米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)、米キンバリー・クラークに次ぐ3位につける。
水平リサイクルは技術開発などでコストがかさみ、黒字化には時間がかかる。同業他社ではP&Gが欧州で使用済み紙おむつを回収しているが、ボトルのキャップなどへのリサイクルにとどまっていた。
ESGの高まり意識
それでもユニ・チャームが水平リサイクルに乗り出すのは、消費者や投資家の環境意識などの高まりを感じ取っているためだ。高原豪久社長は「ESGへの関心が高まり、メーカーは製品を作るだけでよい時代ではなくなった」と語る。こうした対策で出遅れれば、持続的な成長が難しくなるとの危機感を持つ。
紙おむつは、これまでは焼却処分が中心だった。一方、高齢化を背景に消費量は増えている。日本衛生材料工業連合会(東京・港)によると、乳幼児用と大人用を合わせた国内生産枚数は19年に229億枚と11年に比べて6割増えた。うち大人用紙おむつは19年に86億枚と同5割増えており、今後も伸びが見込まれている。
環境省の推計では、一般廃棄物に占めるおむつの量は15年度の4%台から30年度には約7%まで増える見込みだ。再生紙おむつが普及すれば焼却費用や二酸化炭素(CO2)の削減につながる。
ユニ・チャームの水平リサイクル対象となる紙おむつは、当面は同社の生産量の1%程度の見通し。今後は自治体の補助金なども活用し、早期の収益化をめざす。普及のためには衛生面の懸念の払拭も必要だ。同社は「消費者の心理的な壁を乗り越えるには、きめ細かいマーケティング活動も欠かせない」と話す。
広がる水平リサイクル
水平リサイクルの利点は何度も同じ商品に作り替えることで、資源を長期間、循環させられることだ。品質が低めの別の商品に作り替えたりすると、1回のみのリサイクルなどにとどまるケースも多いためだ。
水平リサイクルは徐々に裾野が広がっている。代表例がペットボトルや日用品の詰め替え容器だ。PETボトルリサイクル推進協議会によると、「ボトルtoボトル」のリサイクル量は2018年度に7万2700トン。1年間に出るペットボトルの1割にとどまるが、5年前から8割増えた。
コカ・コーラボトラーズジャパン(CCBJI)は11月、台湾の繊維大手・遠東新世紀の新技術を使って再生したペットボトル飲料を発売する。「綾鷹(あやたか)」「爽健美茶」「い・ろ・は・す」の3ブランドの一部で販売する。価格や販路は通常の商品と変わらない。遠東は「トップグリーンケムサイクル」と呼ばれる世界初の技術を持ち、従来より濁りが少なく透明度が高い再生ボトルをつくれる。
日用品では9月、花王とライオンが洗剤などの詰め替え容器を回収して同じ容器に戻すリサイクル技術の共同開発に着手した。25年までに詰め替え容器のプラ使用量の2割にあたる1万トンの回収を目指す。
(川井洋平)