中国外相、香港で米欧に譲歩せず 「新冷戦」に警戒も
【北京=羽田野主】中国の王毅(ワン・イー)外相は24日の記者会見で、中国政府が香港の社会統制を強める「香港国家安全法」の制定を進めていることについて「一刻の猶予も許されない。必然的な流れだ」と話した。法案に反発する香港の民主派や米欧諸国などに譲歩しない姿勢を示した形だ。一方で、米国と対立を深めて「新冷戦」に至ることには警戒感も見せた。
王氏の記者会見は、開幕中の中国の国会に相当する全国人民代表大会に合わせて実施した。新型コロナウイルスがくすぶる中で、テレビ電話を使って質問に答えた。
香港国家安全法を巡り、米欧は香港に高度な自治を保障する「一国二制度」の崩壊につながると批判を強めている。これに対して王氏は「香港のことは中国の内政で外部の干渉を許さない」と猛反発した。「香港の高度な自治には影響を与えない」とも主張した。
「一国二制度」は国防や外交を除く行政管理権や立法権を香港政府に与える仕組み。香港では本来、中国本土の法律は適用されないが、全人代常務委員会が香港基本法の付属文書に国家安全法を追加して、例外扱いとする方向で準備している。
王氏は2019年6月から続く香港のデモに関して「中国と香港を分裂させようとする勢力の暴力活動がエスカレートしている」と主張した。「中央政府が香港における国家の安全に最も大きく最終的な責任を負っている」と述べ、国家安全法の制定を正当化した。同法は8月にも成立させ、9月の香港立法会(議会)選挙で民主派を抑え込む狙いがあるとの見方が出ている。
王氏は悪化する対米関係について「警戒すべきは一部の政治勢力が中米関係を人質に取り、新冷戦に向かわせようとしていることだ」と話し、「これは歴史を後退させる危険なやり方だ」と述べた。
新型コロナの発生で外交・経済の両面で課題を抱える習近平(シー・ジンピン)指導部にはトランプ政権を過度に刺激し、直接対決に陥る事態は避けたいとの思惑があるようだ。
ただ、米政府は新型コロナウイルスの世界的な拡大について、中国当局が自国での感染が確認された当初に情報を隠蔽したとして批判を強めている。米国では市民団体などが中国共産党などを相手取って賠償請求する動きがあり、米政府が追加の対中関税をちらつかせ、中国に対応を迫っている。
王氏は中国のウイルス発生を巡る責任と賠償論に声を荒らげて反論した。「中国もウイルス感染の被害者だ」と発言し、中国の責任を追及することは「事実に合わず、理屈も通らず、法にかなわない」と反発した。
習指導部は香港などと並び中国の「核心的利益」と位置づける台湾問題でも強硬な姿勢をみせる。王氏は米国が台湾に武器売却を進めていることに触れ「中国の限界ラインを試すことをやめるべきだ」と述べた。「台湾の統一は歴史の必然で、いかなる勢力も阻むことはできない」と主張した。
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