大日本印刷、VRやARで街を「構築」 販促などに応用
大日本印刷(DNP)は23日、仮想現実(VR)や拡張現実(AR)を使って街や施設の仮想空間を構築する事業を始めると発表した。祖業の印刷業から発展させたCG(コンピューターグラフィックス)制作技術を活用する。自治体や施設の管理者公認の仮想空間を作り込み、魅力を発信する。文化財の鑑賞などに加えて買い物もできるようにする。2025年度までに関連事業を含めて累計で100億円の売上高を目指す。
「実在する街や施設をデジタルで再現する『ミラーワールド』はネットやSNSに次ぐ第三のデジタルプラットフォームになると確信している。地域や企業の価値を拡張できる」。DNPの蟇田栄専務執行役員は、こんな言葉で新規事業に期待感を示した。4月末には北3条広場(札幌市)、5月末に宮下公園(東京・渋谷)の仮想空間を「開業」する計画だ。
新型コロナウイルスの影響で多くの人が移動することは難しくなっている。時間や場所の制約なく出入りできる仮想空間を生かし、街の魅力発信を支援する。25年度までに全国30拠点の仮想空間を構築する計画だ。
消費者には地域や施設に根付く文化財を発信する。国内外の美術館や博物館が所蔵する文化財をデジタルアーカイブとして保存し、仮想空間上で鑑賞できるようにする。デジタル空間での鑑賞を通じて文化財に関心を持ってもらい、長い目でみて地域への「リアル送客」につなげていく。
企業向けには施設や商品、サービスの展示会場としての利用を見込む。仮想空間で施設や自治体の物品を展示し、気に入った商品をネット上で注文すると実際に自宅へ届くサービスを想定している。DNPはすでに企業や施設向けに仮想の展示空間を構築・運用するサービスを提供しており、20年には人気作家のイラストを展示するバーチャル展示会を開催した。グループ傘下の図書館流通センター(東京・文京)と連携し、本の注文ができる「バーチャル図書館」も開発している。
DNPは仮想空間を利用する企業や団体が負担する空間の利用料や制作費を収益源とする。仮想空間で商品を販売したり演出を調整したりする場合は、案件ごとに追加費用を得る方針だ。
同社は印刷業を祖業として事業領域を拡大してきた。企業などが発行するパンフレットの製造を通じてCG制作のノウハウを蓄積し、壁紙や建材の表面を印刷する技術を活用して高精細なデジタル空間を作る事業を展開してきた。今回は印刷で培った表現力を生かし、仮想空間を作り込む。
VRやARなど「XR技術」を使ったサービスの市場規模は拡大が見込まれる。矢野経済研究所(東京・中野)によればXR技術を使った360度で楽しめる動画の国内市場は25年に1兆1952億円と、19年の約3倍まで拡大する見通し。
高速通信規格「5G」の普及も市場拡大を後押しする。DNPは25年度までに累計で自治体の仮想空間を構築する事業が30億円、消費者向けの仮想空間サービスなどで40億円、企業向け展示サービスで30億円の売上高を見込んでいる。
(平岡大輝)
新型コロナウイルスの感染症法上の分類が2023年5月8日に季節性インフルエンザと同じ「5類」に移行しました。関連ニュースをこちらでまとめてお読みいただけます。
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