iPhone誕生15年
続く進化、変わらぬDNA

「アップルは電話を再発明する」――。発売に先立ち、初代iPhoneを発表した米アップル創業者スティーブ・ジョブズ氏は2007年、こう宣言した。もくろみ通り、iPhoneは電話機としてだけでなく手のひらにのるパソコンあるいはカメラとして、わたしたちの生活や経済を大きく変えた。

29日でiPhoneの初代機(日本は未発売)発売から15周年を迎える。この革命的な機器の15年の歴史を追った。





TOPIC 1

進化の軌跡



時代変えた代表機種

初代iPhoneの登場は、いま振り返るとその後の15年間の変化の序章にすぎなかった。ホームボタンに指紋センサーを搭載したiPhone5s、全画面ディスプレーを採用したiPhoneXなど、エポックメイキングな機能に着目し数台を紹介する。

さらにiPhoneだけでなく、肩掛けショルダーホンやガラケーなど約2000台の電話を収集するモバイル研究家の木暮祐一さんに、進化の過程と私たちの生活に与えた影響について聞いた。



iPhone

衝撃的な操作性の携帯電話登場
通信規格の関係から日本では未発売。キーボードやボタンもなく、タッチスクリーンを指で操作するだけ。まだApp Storeもなく、使えるのはプリインストールされた限られた数のアプリだけだった。

2007年1月、iPhoneを披露する米アップルのスティーブ・ジョブズ氏=AP

iPhone 3G

ガラケー全盛期の日本にiPhone初上陸
日本で初めて販売されたiPhone。ソフトバンクによる独占販売となった。それまでは通話にパケット通信料を利用量に応じて支払う料金プランが主流だったが、iPhone専用のパケット使い放題プランを用意した。3G通信に対応した。

iPhone 4

角張ったデザインに変更
それまでの丸みを帯びたものから角張ったデザインに変更された。フロントカメラを初めて搭載した。

iPhone 5s

指紋センサーでロック解除
ホームボタンに指紋センサーを内蔵し、指紋でロック解除できるようになった。

iPhone 7 Plus

日本向けで初めてFelicaに対応
背面に初めてカメラを2個搭載。Suica(スイカ)など交通系ICカードが使えるようになり、財布の機能も果たすようになった。電子マネー機能の追加に伴い、電波法上の関係により背面に「総務省指定…第○号」の文字が記された。

iPhone Ⅹ

全画面ディスプレーに
iPhoneで初めて有機ELディスプレーを採用し、全画面ディスプレーに。これに伴ってホームボタンを廃止し、指紋認証から顔認証に変更した。

iPhone 11 Pro

初のトリプルカメラ搭載
初めてトリプルカメラ(広角、超広角、望遠レンズ)を搭載した。また、iPhoneで初めて「Pro」と名がついた。





TOPIC 2

どこが違う?
初代と最新型



15年の歴史の中で、性能が格段に飛躍した機能の一つはカメラだ。SNSの登場で日常の一コマを撮影する機会が増え、より高性能なカメラを求める声が高まった。ディスプレーも時代のニーズに応えて大型化している。初代iPhoneと最新の13Proを比較することで、15年間の進化を追っていく。

デザイン

初代と13Proの本体の写真

13Proはホームボタンがなく、縦長の全画面ディスプレーのデザインからはすっきりとシャープな印象を受ける。また、側面にステンレススチールを用いており、背面のガラス仕上げとともにつやがあるデザインだ。一方の初代機は13Proと比べると丸みを帯び、まさに手のひらにぴったりと収まるサイズ感。意外なほどに小さい印象だ。

アップルマークが施された背面は、初代はシルバーのアルミ製ボディーに下方が黒のデザイン。3G以降は一色で統一されている。前面は下部にホームボタンがあるおかげで画面自体がやや小さく、ずんぐりむっくりとした印象さえ受ける。



カメラ

初代と13Proのカメラの写真

カメラの機能は格段に進化している。初代機に搭載されたカメラは1個。ズームのできない単焦点レンズで、ビデオ機能もなかった。一方、13Proは正面と背面に計4個のカメラを備える。背面の3個のカメラはそれぞれ望遠(焦点距離77ミリ)、広角(同26ミリ)、超広角(同13ミリ)の機能を果たす。望遠レンズが3倍光学ズームに対応し、遠距離を高画質で撮影できるようになった。さらに一部を拡大して撮影できるデジタルズームは最大15倍まで可能だ。

マクロ撮影もできるようになり、被写体から2センチの距離まで接近可能。動画は4Kで撮影でき、自動的に被写体を認識し背景をぼかすシネマティックモードがついた。

写真を比較すると画質の違いがよく分かる。左は初代で撮影したもので画素数は200万。粗く、被写体の輪郭がぼやけている印象だ。一方右は13Proで撮影し、画素数は1200万。きめが細かくなり、特に暗部のディテールがはっきりと出ている。



ディスプレー

初代iPhoneのディスプレーの大きさは3.5インチ。スティーブ・ジョブズ氏が強くこだわったサイズとされ、手のひらに乗り、片手で操作できる大きさだ。2011年10月発売の4sまで3.5インチを踏襲。4s発表の翌日、ジョブズ氏死去の報が世界を駆け巡った。

以降は年々大きくなっている。13Proは6.1インチまで大型化した。また、6からは「Plus」というタブレット端末を意識したシリーズが登場。背景には「Netflix」などの動画配信サイトの普及で、スマホでの動画視聴ニーズの高まりがある。iPhoneXでは、防水機能やより高画質の動画を表示できる有機ELディスプレーを採用した。13Proは必要に応じて1秒間に10~120回の頻度で画面を更新する機能を持つ。5G普及を背景に高まるゲーム需要も狙っている。

ズーム機能で拡大した電話アイコンを比較。右がiPhone13Pro、左がiPhone3GS(初代iPhoneにズーム機能がないため、解像度が同じ3GSで代用)



充電ポート

ドックケーブルとライトニングケーブルの写真
ドックケーブル(左)とライトニングケーブル

iPhone5より前の充電差し込み口はドックケーブルによるものだったが、以降はライトニングケーブルというアップル独自企画の充電ポートに変更された。欧州議会と欧州理事会は22年6月、電子機器の充電ポートをUSBタイプCに統一することでほぼ合意。アップルなど別の規格を採用する企業は2024年までに対応を迫られることになり、動向が注目される。



TOPIC 3

分解で分かった進化の系譜



社会を変えた革命的デバイスの中身はどうなっているのか。フォーマルハウト・テクノ・ソリューションズの柏尾南壮氏は、iPhone日本上陸から歴代iPhoneをはじめ各種スマホを分解し続けている。この15年で部品数は3Gから7割近く増えた。一方で、「初期端末の内部構造に見られるiPhoneのDNAは、今に引き継がれている」と指摘する。分解のスペシャリストに内部構造から見える変化を分析してもらった。

分解専門家が映像で語る iPhone内部、3つの特徴






iPhoneは、カメラや地図、財布のあり方を根底から変えた。それに伴い、いくつもの新しい経済圏も生み出した。例えば国内で成長する中古スマホ市場だ。中古スマホ販売のニューズドテックの粟津浜一社長CEOは「iPhoneが世界中でスマホの二次流通市場を作った」と話す。MM総研(東京・港)によると、2021年度の販売台数は204万台、25年度には268 万台となる予測だ。

初代以降変わらぬDNAの部分をたどると、未来のiPhoneの姿がおぼろげながらも見えてくる気もする。

初代から13まで踏襲されている筐体(きょうたい)のデザインには、アルミやステンレスが使われている。ESG(環境・社会・企業統治)に対する社会的関心の高まりを背景に、この流れが「大きく変わる時が来ると個人的には思っている」。フォーマルハウトの柏尾氏は指摘する。「アルミ合金やステンレスはエコと逆行する部材。自然にいつか返るものを使おうという動きがあるので、おそらく今のままではないだろう」と話す。この15年間、iPhoneは時代や消費者ニーズに呼応して新たな機能を搭載し、私たちの生活に変革をもたらした。これからどのように進化していくのか。このデバイスの動向に引き続き注目が集まりそうだ。



取材・記事
内山倫子、小谷裕美、原田卓哉

映像
大須賀亮

グラフィックス
藤沢愛、熊田明彦

編集
勝又康文、松本勇