海の「LNGスタンド」、船舶の燃料転換後押し
船舶燃料が重油から液化天然ガス(LNG)に転換することを見越し、海運各社が燃料供給体制の構築に動き始めた。川崎汽船は9月にも、シンガポールで専用船を使ったLNGの海上供給を始める。日本郵船なども今秋、伊勢湾で国内初となる同様の事業を始める。2050年には船舶燃料の41%がLNGに切り替わるとの試算もある。"海のガソリンスタンド"とも言えるLNGの海上供給体制を構築し、燃料転換を後押しする。
船舶燃料は陸のタンクなどから燃料を専用船で運び、海上で給油することが多い。重油の専用船にLNGを積むことはできないため、専用船を造る必要がある。商船三井の池田潤一郎社長が「(専用供給船という)インフラがないとLNG燃料船の普及は難しい」と話すように、船舶燃料がLNGに転換する上で、供給体制がカギとなる。
川崎汽船は9月にも、シンガポールでは初となる専用船を使ったLNGの供給を始める。船舶向け燃料供給を手掛ける地場のFueLNG社と業務提携し、同社が建造中の専用船を使う予定だ。まずは7500立方メートルのLNGが積載可能な船1隻を投入する。満タンにLNGを積み込めば、LNG燃料を使う大型自動車船換算で約3回分の補給が可能だという。売上高の見込みは非公開だが、現在のLNG相場と照らし合わせると年間100億~150億円になりそうだ。
シンガポールは世界最大の船舶燃料供給港で、日本の海運会社だけでなくコンテナ船最大手のA・P・モラー・マースク(デンマーク)など世界中の海運会社が利用する。ここで安定して供給できれば世界の海運から信頼を得られる。商船三井も21年に政府系エネルギー企業のパビリオンガス(シンガポール)と連携し、アジア最大級となる1万2千立方メートルのLNG供給船の運用を始める計画だ。
国内でも供給体制の構築が進む。日本郵船、川崎汽船、中部電力、豊田通商は9~12月、専用船を使った船舶へのLNG供給を国内で初めて始める。大型の自動車船1回分超の供給能力を持つLNG供給専用船を1隻運航させる。
LNGを燃料とする船舶は重油とは違う内燃機関が必要となり、船舶の建造コストは重油燃料船に比べて2、3割高い。一方で燃費は2割ほど改善し、二酸化炭素(CO2)排出量は重油より2、3割少ない。
IMOは50年までに世界の船が出す二酸化炭素の排出効率を08年比で半減させることを目指している。北欧の船級協会、DNV GLはこの目標を達成するにはLNGを燃料とする船が41%、アンモニアを燃料とする船が25%に増え、重油を燃料とする船は19%にまで減る必要があるとの予測を発表している。LNG輸送では日本勢の世界シェアが約25%でトップ。コンテナなど欧州や中国に押されがちな海運業界にも勝機はありそうだ。
(企業報道部 吉田啓悟)
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