WIPO、シンガポールから事務局長 米が中国系阻止
【ローザンヌ=細川倫太郎】世界知的所有権機関(WIPO)は4日、次期事務局長にシンガポール特許庁長官のダレン・タン氏を加盟国による投票で選出した。任期は6年間。5月の総会での正式承認を経て、10月から就任する。米国などの支持を受け、有力とみられていた中国人候補との選挙戦を制した。
今回の選挙は最終的に中国、コロンビア、ガーナなど6カ国が候補者を擁立した。WIPOの委員会で83カ国による投票が2回行われた。最後はタン氏と中国人の王彬穎(ワンビンイン)WIPO事務次長との一騎打ちとなった。タン氏が55票を獲得し、王氏(28票獲得)に勝利した。
当選後、タン氏は「すべての国が知的財産を使い、経済発展や社会改革ができるように支援していく」と抱負を述べた。
スイス・ジュネーブに本部があるWIPOは、知的財産の保護についての国際的なルールづくりや、特許の運用を担う。今回の選挙は中国人が有力候補となったことで、注目度が高まっていた。中国は知的財産の侵害や技術移転の強要などが問題視され、米中貿易戦争の一因にもなった。
米国や欧州諸国は「中国人が事務局長に就任すればWIPOの施策や運営が中国の意向に沿いかねない」と懸念。他の国連機関でも中国人がトップに就くケースが目立っていたことへの危機感も強く、選挙戦ではタン氏の勝利に向けて多数派工作を進めていた。
日本は当初、WIPOの夏目健一郎・上級部長を候補者に立てたが、2月に取り下げた。中国に対抗するため「米国などと足並みをそろえた」(ジュネーブ外交筋)とみられている。
WIPOの事務局長選挙は最も得票が少ない候補者から脱落する方式を採用している。今回は4~5日の2日間の日程で実施される予定だったが、途中で棄権者が出たことで1日で終了した。