大阪の交番襲撃、懲役12年判決 限定的な責任能力認定
2019年6月、大阪府吹田市の交番前で警察官を刃物で刺して拳銃を奪ったとして、強盗殺人未遂などの罪に問われた飯森裕次郎被告(35)の裁判員裁判で、大阪地裁は10日、懲役12年(求刑懲役13年)の判決を言い渡した。渡部市郎裁判長は争点となっていた責任能力の有無について、限定的にあったと判断した。
飯森被告は起訴前と起訴後の精神鑑定で統合失調症と診断された。渡部裁判長は判決理由で「精神障害が犯行に及ぼした影響は大きい」と指摘。一方で虚偽の110番通報で警察官を1人にしたり逃走時に衣服を捨てたりするなどの行動を挙げ、「臨機応変で合理的な行動をとった。善悪を判断し、行動を制御する能力を全く欠いた状態ではなかった」として限定的な責任能力を認めた。
その上で「犯行は著しく危険。地域社会に重大な脅威を与え、住民に強い恐怖心や不安感を与えた」と量刑理由を述べ、弁護側の無罪主張を退けた。
判決によると、飯森被告は19年6月16日午前5時38分ごろ、吹田市の千里山交番前で、古瀬鈴之佑巡査長(28)の胸などを包丁で刺し、実弾が入った拳銃1丁を強奪したなどとされる。古瀬巡査長は一時意識不明となったが、回復して職場復帰した。
交番の安全対策進む 防犯カメラ、1人勤務回避
全国で拳銃を奪うなどの目的で交番勤務の警察官を襲う事件が相次ぐ中、各地の警察は安全対策を強化している。
交番は1874年に始まった日本発祥の制度で、通常は2~3人が一組で24時間交代で勤務する。1~2人の警察官が居住する駐在所を加えると、2021年時点で計約1万2000カ所ある。
大きな安全対策の一つはハード面だ。18年6月に男が警察官を刺殺し、奪った拳銃で警備員を射殺する事件が起きた富山県警では、一部の交番で侵入者を防ぐためにカウンター上を強化ガラスで仕切るなどした。
大阪府警も建物の内側と外側を映す防犯カメラの設置を全交番で完了。建物の陰に不審者が潜むのを防ぐため、人を感知すると光るセンサーライトも付けた。警察庁は交番近くの路上をうろつく不審者を人工知能(AI)搭載の防犯カメラで検知し、管轄の警察署に警告するシステムの導入も検討している。
各地の事件では、多くが警察官が1人になったところを襲撃された。なるべく複数の人数で交番を運営することが安全上の大きな課題だ。刑法犯認知件数が減少する一方で、限られた人員で多様化する犯罪に対応するため、交番の再編も進んでいる。
奈良県警は1人勤務の駐在所を複数人勤務の交番に統合するなどして、県内に176ある交番・駐在所を21年からの5年間で約2割減らす方針だ。ただ地域からは不安の声も上がっており、4月に「自動車警ら隊」を発足させ、山間部など駐在所がなくなる地域のパトロールを強化する。