[社説]JAXAは組織も立て直せ
宇宙航空研究開発機構(JAXA)の古川聡宇宙飛行士が責任者を務めた宇宙医学の実験で、データの捏造(ねつぞう)や改ざんなどが見つかった。実験ノートが残っておらず、研究計画の中身や進捗状況の点検もずさんだった。
古川氏は不正に直接は関与していなかったものの、監督責任が問われ、戒告の懲戒処分を受けた。JAXAはデータを改ざんした研究員を停職2週間の処分とした。責任を個人に帰すのでは再発防止につながらない。組織の問題と捉え、体制を立て直すべきだ。
問題があったのは、将来の宇宙基地での居住を念頭に、活動する宇宙飛行士のストレスを把握するための実験だ。2016~17年に実施された。意図したデータが得られないことなどから結果を捏造したり書き換えたりする問題が発覚し、実験は19年に中止された。2億円近い公的な研究費を使ったが、成果はほとんど出ていない。
JAXAの組織運営にも問題がある。20年11月に不正の強い疑いを把握しながら、公表したのは22年11月だった。あまりに時間がかかりすぎだ。
古川氏の記者会見までにはさらに2カ月近くを要した。同氏は公表時、米国で宇宙滞在のための訓練を受けていたが、翌月の12月には帰国していたという。もっと早く対応できたのではないか。
論文としての発表ではなく、文部科学省が定義する研究不正には該当しないとJAXAは説明している。だがデータの改ざんや捏造は重大な不正行為である。真摯に対応するのが当然だろう。
宇宙開発は国際的な協力で進んでいる。ずさんな実験や体制では各国からの信頼を失う。安全保障の比重が高まる中で、リスク管理の失敗は致命的だ。JAXAは国際社会にも説明責任を負う。
JAXAは宇宙医学の研究の見直しも検討するという。宇宙医学は専門の大学研究者らに任せ、JAXAは実験の場だけを提供する体制に改めてはどうか。宇宙開発に専念するのが本来の姿だ。