洋上風力発電 浮体式で挑む

大型クレーン船が洋上風車の発電機(中央)などをタワー上部(右)に取り付ける(11月25日、長崎県五島市の椛島付近)



長崎県・五島列島の沖合で日本初の「浮体式」洋上風力発電ファームの建設が動き出した。海に浮かぶ大型クレーンが風車の発電機などをつり上げ、タワー上部に取り付ける。海中に沈んだ部分を含めると全長176.5メートルの巨大建造物になる。11月下旬、完成した1号基が設置海域にえい航された。年内に3基、2023年に残りの5基を設置し24年1月に発電事業を始める予定だ。




洋上風力は再生可能エネルギーを担う手段として有望視されている。世界では欧州を中心に風力の割合が高い。日本は太陽光の普及が進んだことなどから、風力発電は総発電量のわずか0.9%にとどまっている。風力発電所を建設するための港湾の整備が遅れているほか、発電所の施工などを担う国内人材の不足も課題だ。


仮係留を解かれ、設置海域への移動を待つ風車


陸上で大きな部品を作り、海上で完成させる。五島市福江島の建造ヤードでは巨大な風車の部品が組み立てられている。浮体部分は円筒形部品で構成され、加工する機械は事業主体の戸田建設などが自社開発した。風車の部品は約2万点にも及び、雇用創出や関連産業への経済波及効果も大きい。台船で約16キロメートル離れた椛島の作業海域に運ばれた浮体部分は、自身の浮力を利用して海上で立て起こされる。タグボートやクレーン船が忙しく行き交う様子は、海の上の工場のようだ。




グラフィックで知る日本の洋上風力発電

(注)IEA「Renewables 2021」、資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」等から同庁作成資料を日経が加工
(注)IEA「Renewables 2021」、資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」等から同庁作成資料を日経が加工
(出所)ブルームバーグNEF
(注)「IEA(2019)Offshore Wind Outlook」および「MHIベスタス提供資料」より資源エネルギー庁作成
(注)NEDO「浮体式洋上風力発電技術ガイドブック」の図を日経が加工
(注)海洋状況表示システム (https://www.msil.go.jp/)をもとに日経作成
(注)日本風力発電協会「風力発電ポテンシャルマップ」をもとに日経が加工
※離岸距離30km未満、水深200m未満で自然公園、世界遺産などの社会的条件を考慮
(注)日本風力発電協会「風力発電ポテンシャルマップ」をもとに日経が加工
※離岸距離30km未満、水深200m未満で自然公園、世界遺産などの社会的条件を考慮
(注)洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会「洋上風力産業ビジョン(第1次)」をもとに日経が加工
(注)洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会「洋上風力産業ビジョン(第1次)」をもとに日経が加工














日本の再生可能エネルギー導入率は19.8%(2020年)にとどまる







各国の再エネ利用では風力が多くを占めている

日本は水力発電や太陽光発電が多く、総発電量に占める風力の割合はまだ0.9%しかない













世界の洋上風力発電では大幅なコスト削減が進む
2012年(上期)から22年(同)の10年間で62%削減されている










主な要因は、洋上風車の大型化だ
技術革新で発電効率が向上している

風力は太陽光発電のように日照に左右されず
夜も発電できる

洋上は陸上と比較して設置可能エリアが広く
騒音や景観の問題も起こりにくい















洋上風車は2種類ある。
ひとつは、浅い海に適した「着床式」
着床式は水深50メートル程度までが
適している


もうひとつは、水深50メートル以上の
海域でも設置できる「浮体式」だ












風力発電が先行する欧州・北海は浅い海が多いため「着床式」が数多く建設されている

日本周辺の海は浅い海が少ない














日本風力発電協会が作成した
「風力発電ポテンシャルマップ」を重ねると
北海道、東北、九州などに
風が強く、適した海域が分布することが分かる







再エネ海域利用法に基づく入札が行われ
4つの一般海域で開発が始まっている
6つの港湾区域でも開発が進められており、

合わせて
国内10海域で洋上風力発電の設置に向けた具体的な取り組みが行われている










2030年までに1000万kW




2040年には3000万から4500万kWが導入され
洋上風力で原発45基分の出力に相当する電力をまかなう計画が進行する




日本では、事業者が洋上風力発電所の稼働に向けて海域を占用するための「再エネ海域利用法」と呼ばれる法律が2019年4月に施行。21年10月に閣議決定された「第6次エネルギー基本計画」の中で、洋上風力が再生可能エネルギー主力電源化の切り札と位置づけられた。洋上風力導入に向けて開かれた官民協議会では、2040年までに最大で原発45基分の出力に相当する4500万キロワットを導入する目標が掲げられるなど、大量導入の機運が高まる。年内には秋田県で着床式の大規模な洋上風力発電ファームでの商業運転が始まる。日本の洋上風力発電が黎明(れいめい)の時を迎えている。


(小園 雅之、柘植 衛、宮崎 瑞穂)