天然ガス高騰、英エネ業界に経営危機 政府が支援模索
【ロンドン=篠崎健太】天然ガス相場の高騰を背景に、英国で電力・ガスの供給を手掛けるエネルギー事業者の経営不安が高まっている。仕入れ価格の上昇で販売価格との「逆ざや」が急速に広がったためで、英政府は関係機関と対応協議を続ける。経営破綻によって消費者向け供給が滞るのを防ぐため、融資などの公的支援策も検討課題に浮上している。
クワーテング英民間企業・エネルギー・産業戦略相は20日、エネルギー企業や消費者団体と会合を開き、ガス価格の高騰について対応を協議した。終了後、自身のツイッターに「私の任務は、エネルギー供給企業の破綻による消費者への混乱を最小限にすることだ」と投稿し、安定供給の維持に万全を期す構えを強調した。
天然ガスの相場は夏場から騰勢を強め、9月に入って上昇が加速した。金融情報会社リフィニティブによると、英国では翌日渡しの取引価格が15日に一時1サーム1.96ポンド(約295円)と、前日比で18%も上げた。前週末にかけてやや値を下げたが8月末比でなお3割超高い。
新型コロナウイルス禍からの経済活動の回復で、世界的に需要が強まっていることが背景にある。天然ガスはもともと「脱炭素」の流れで、石炭や石油などから置き換える引き合いが強かった。欧州ではロシアからの供給不足が指摘されているほか、風の不足による風力発電の稼働量低迷も需要に拍車をかけている。
ガスの供給会社にとっては販売価格を急に引き上げるわけにはいかず、仕入れ価格の急騰は採算悪化につながる。とりわけ相対的に余力が限られている中小事業者の苦境が深まっているもようだ。英政府によると、この数週間で4つの小規模事業者が業務停止に追い込まれた。政府と規制当局は前週末までに、事業者が経営破綻しても特別管財人のもとで供給が滞らないようにすることで合意した。
英メディアによると、約170万の顧客に電力やガスを供給しているエネルギー関連スタートアップのバルブエナジーも経営難に直面している。同社は「資金調達の様々な可能性を模索している」との声明を出し、資金繰り確保を急いでいると明らかにした。
英政府は国内のガス需給について、必要量を満たす十分な供給能力があり「今冬の供給が非常事態になるリスクは高まっていない」と説明している。だが卸売価格が高止まりすれば川下への転嫁は避けられない。ガスの高騰で電力相場にも上昇圧力が強まっており、逼迫した状況が改善しなければ家計や企業収益にもしわ寄せが及ぶ。
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