マンション敷地内の崖崩れ 通行人死傷の賠償責任は?
生保損保業界ウオッチ
特約や補償範囲などが商品によって異なる保険の比較はなかなか大変。この連載では保険に詳しいファイナンシャルプランナーが商品選びの勘どころを紹介する。
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2020年2月、神奈川県逗子市にある分譲マンション敷地内の斜面が崩落、斜面下道路を通行中の高校生が土砂に埋もれて死亡する事故が起きました。報道によれば、遺族は当該マンションの区分所有者に対し、安全対策を怠ったとして1億1800万円の損害賠償請求訴訟を提起。さらに過失致死の疑いで刑事告訴もしており逗子署に受理されています。
マンションの所在地は、「逗子市土砂災害等ハザードマップ」上で土砂災害警戒区域(イエローゾーン)に指定されています。土砂災害には「土石流」「急傾斜地の崩壊」「地滑り」があり、現地は急傾斜地の崩壊の危険、つまり「崖崩れ」の危険があるとされていました。
マンション敷地内の共用部分は、所有者に管理責任があります。共用部分に欠陥があったり、管理上の過失によって第三者を死傷させたり、モノを壊したりした場合には、被害者に対する法律上の損害賠償責任を区分所有者全員で負うことになります。
管理組合加入の「施設賠償責任保険」でカバー可能
こうした際には、管理組合が加入している保険で被害者への損害賠償金を賄うことが可能です。
分譲マンションは、各区分所有者の住戸である「専有部分」と、それを除くエントランスやエレベーターなどの「共用部分」で構成されます。通常、専有部分については区分所有者が、共用部分は管理組合が火災保険等に加入して災害や事故に備えています。
管理組合の加入する火災保険(「マンション総合保険」など)に付帯できるのが「施設賠償責任保険(名称は保険会社で異なる)」で、共用部分に起因する偶然な事故等で他人を死傷させたとか、他人の財物に損害を与えるなどして法律上の損害賠償責任を負った場合、保険金額を上限に損害賠償金等をカバーできます。
管理組合の多くはこの種の保険に加入していますが、設定している保険金額は管理組合でまちまちです。数千万円レベルの保険金額では、深刻な事故では不足が生じる可能性があります。ハザードマップ上でリスクが高い区域にある住宅なら、保険金額の設定にはより慎重な検討が必要です。
万が一、保険に加入していなかった場合、保険でカバーできた相当額を含めた全賠償額を管理組合および区分所有者が負担することになります。加入は必須でしょう。
近年の風水害の多発で、新たに住まいを求める時、可能な限り安全な場所を選ぶことはより重要になっています。災害から自らの命や財産を守るとともに、第三者に損害を与える可能性を踏まえると無視できない要素です。
生活設計塾クルー。学生時代から生損保代理店業務に携わり、2001年、独立系FPとしてフリーランスに転身。翌年、生活設計塾クルー取締役に就任。『地震保険はこうして決めなさい』(ダイヤモンド社)など著書多数。財務省「地震保険制度に関するプロジェクトチーム」委員。社会福祉士。
[日経マネー2021年2月号の記事を再掲載]
著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP (2020/12/21)
価格 : 750円(税込み)
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