ゼロエネルギーへ 工場、庁舎、オフィスで始動

カーボンゼロ社会を実現する次世代建築として「ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」が注目されている。ZEBは省エネと創エネで年間の1次エネルギー消費量を実質ゼロにする建物を指す。太陽光、風、地中熱などを有効活用し、自然と人にやさしい環境を実現する。政府は2030年までに、すべての新築建築物でZEB基準の省エネ性能適合を義務化する方針だ。



木のパネル 見守る工場

工事が進むOKI新工場内部。秩父杉のCLT耐震壁が単一になりがちな工場内に温かみを与える(2月、埼玉県本庄市)

OKIは埼玉県本庄市で日本初となるZEBの新工場を18日、竣工する。ZEBの評価は、空調、換気、照明、給湯、昇降機の5項目で計算される。新工場では約9割のエリアを算定対象とした。51%の省エネと太陽光発電による82%のエネルギー創出で、「ゼロ」を上回る133%の削減を実現。篠原誠一工場長は「カーボンゼロ化を進め、フラッグシップ工場となる。今年度中に太陽光パネルを2倍に増やし、生産分野を含めた全てのエネルギーを工場内でまかなう」と話す。ふんだんに使用する秩父杉は、耐震性、断熱性、調湿性の向上に貢献する。各種センサーが最適環境を制御し、木のパネルが温かみを生み出す。




地中熱を利用 95年ぶりの新庁舎

北海道古平町の現庁舎(左)と机、椅子などが運び込まれた新庁舎のオフィス。人感センサーでLED照明が点灯し、地中熱パイプが通る壁が冷暖房の役割を果たす(3月)

北海道古平町の職員らは、5月6日から95年ぶりの新庁舎で仕事をする。国土交通省が定めた、住宅の省エネ性能の指標である建築物省エネルギー性能表示制度(BELS)で最高ランクの星5を取得。ZEBを見据えた建築物として評価を受けた。

現在の庁舎は道内最古の1927年(昭和2年)築。鉄筋コンクリートに木造増築し、冬はいくつも灯油ストーブを使い、夏はエアコンなしで業務を行ってきた。新庁舎では、地中熱を使った床と壁の冷暖房システムを取り入れ、静かで快適な業務環境を実現している。新庁舎には図書館や集会所も入る。町民に開放して、オフィスなどでのZEB普及につなげる意向だ。


写真左は、地中熱利用実証実験に参加する札幌市内の会社の駐車場。同右は同じ場所を赤外線カメラで撮影した画像。温度が高いところが赤く表示されている。外気と地中の温度差を利用し、埋設したパイプ内の不凍液を循環させて融雪している(3月)



「林福協業」 課題がアイデア生むオフィス

バイオマス関連のコンサルティングなどを行う森のエネルギー研究所(東京都青梅市)は3月下旬、木造2階建てのZEB新オフィスを開設した。2階に同社、1階に福祉作業所を運営する知創(同)が入る協業オフィスだ。


地元多摩産の材木を使い、薪(まき)ストーブを設置。1階で働く障害のある人たちとも日常的に接点を持つことで、発想に多様性を取り込む働き方を模索する。森のエネルギー研究所の大場龍夫社長は「脱炭素や社会的分断の課題を取り込んだオフィスでアイデアを生み出す」と狙いを語る。自宅もゼロエネルギーで新築したという同社の菅野明芳さんは「光熱費の先払い投資と考えれば、住宅でも十分実現可能」と話す。コストや技術者育成の課題を乗り越え、日本の「住」をアップデートする時が来ている。


薪ストーブを使ってドライフルーツを作る知創と森のエネルギー研究所のスタッフ(1日、東京都青梅市)