東京マラソン「プレミアムな舞台、最高の選手競う」
早野忠昭レースディレクターに聞く
東京五輪の男子代表が懸かる東京マラソンが3月1日、号砲を迎える。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で一般ランナーの参加が取りやめになったが、2時間5分50秒の日本記録を持つ大迫傑(ナイキ)や設楽悠太(ホンダ)、井上大仁(MHPS)ら国内の有力選手がエントリー。残る1つのイスを巡る国内の争いは激しく、海外招待選手も世界トップクラスが集まった。大会の作り手といえる早野忠昭レースディレクターに期待や展望を聞いた。
――一般ランナーが参加できなくなり、さみしい光景になる。今回の決定はレースディレクターとして苦渋の決断だったのではないですか。
「この刻々と変化する状況において、悩みに悩んだ末、車いす、マラソンエリートのみの開催という決断をした。残念ながら走ることができなかったランナーの気持ちに応えてもらえるよう、エリート選手の走りに期待したい。引き続き、感染症予防対策を行い、安全・安心な大会の準備をしていく」
――世界歴代3位の2時間2分48秒を持つ前回覇者のビルハヌ・レゲセ(エチオピア)ら豪華な顔ぶれとなりました。
「作り手として毎年どんなレースになるか、ストーリーを考えている。前回優勝したレゲセの招待はもちろん、世界の動向を見つつ、どの選手とのマッチアップが面白いかなどいろいろアイデアを練った。今年は日本人による五輪代表選考もある。キャスティングは史上最高、世界で戦うためのプレミアムなステージは用意できた」
「我々は一貫してグローバルスタンダードな大会にしなければいけないと唱えてきた。今回は自己ベストが2時間2分台の選手が1人、2時間3分台が2人。どの大会にも負けないメンバーだ。大迫、設楽悠でも優勝は簡単ではない。それが世界の現実。日本人を勝たせるレースではなく、リアルなレースを見せないといけない」
「女子は五輪選考会ではないが、海外勢に2時間18分台が2人、2時間19分台が3人いる。世界のフィールドが国内のレースにもあることを示せるのではないか」
――男子は五輪代表の最後の1枠を争っている。前評判では大迫、設楽悠、井上の三つどもえと言われます。
「走りは三者三様だと思う。設楽悠は2時間4分台の意識もあるだろう。最初からレゲセと一緒に行ってもおかしくない。2018年に設楽悠に抜かれて日本記録(当時)を出された井上は、それを逃さないだろう。昨年寒さで途中棄権した大迫は背水の陣といえる」
「今回(日本人の中で)上位に入ることは選考において意味を成さない。天候さえ良ければ30キロまで速い海外勢についていくのではないか。日本人ができないはずはなく、勝負のポイントといえる30キロ地点で日本人が8人くらい含まれていてほしい」
――ペースメーカーはどういう設定になりますか。
「最終的には本番前日のテクニカルミーティングで決めることになるが、2つの設定を考えている。一つは2時間3分を切るペースになるだろう。コースレコードは17年にウィルソン・キプサング(ケニア)がマークした2時間3分58秒。レゲセも2時間1分台はさすがに意識していないと思うが、国内で初めて2分台を見せてほしい」
「もう一つは1キロ=2分57秒に近いペースを考えている。東京のコースは前半が下り基調なのである程度(速く走って)貯金をつくり、それを減らしていくことになる。序盤から前のペースメーカーにつく日本人がいるかもしれない」
――日本の男子マラソン界は底上げが進んでいます。
「日本記録を出せば報奨金1億円をもらえる取り組みも大きいが、前に追いかける選手がいるレースを経験することが記録を押し上げる。今や2時間6分台、5分台を掲げる選手が多くなっているが、フェーズを変えたのは17年に東京で初マラソンを迎えた設楽悠だと思っている。序盤から高速で走り、世界に挑戦する姿に胸が熱くなったし、私が望んでいたレースをやってくれた」
――東京マラソンの魅力を高めるには何が必要ですか。
「07年にスタートしたときは底辺が広い、市民マラソンとして最高の大会だったが、世界のスタンダードからは遠いという意識があった。現在は頂点を引き上げて大きな二等辺三角形をつくるイメージでいる。男女ともに他に引けを取らない選手をそろえなければいけない」
「(世界で6大会ある)ワールドマラソンメジャーズでは最も後発だが、トップ選手の層の厚さでは世界で2、3番目にくるだろう。大会同士の選手の取り合いは激しいが、来年はエリウド・キプチョゲ(ケニア)を呼びたいし、将来的には世界で一番の大会にしたい」
(聞き手は渡辺岳史)