本物そっくり「ニセiPhone6」 中身は30ドルスマホ
柏尾南壮 フォーマルハウト・テクノ・ソリューションズ ディレクター
記者が上海で入手したiPhone 6模造品の価格は2万円少々。本物の3分の1程度の価格である。それでもシャンパンゴールドのケース、本物と変わらない質感、黄色とオレンジの2色のカメラ用フラッシュなど、外観はかなり似ている。正規品の発売から、わずか3カ月ほどで世に出た模造品である。
一見したところ、この模造品にもiPhone用のLightningコネクターらしきものがある。しかしソケットは汚れており、めっきがボロボロだ。正規品の充電ケーブルを接続してみたが、「カチっ」という接続完了の手応えがない。
だまされて購入した記者によると、ケーブルとの相性によっては充電できるときもあるらしいのだが、数時間たっても何の変化もない。仕方なく充電をあきらめて、動作確認不能の状態で分解に入った。
同じなのはディスプレー寸法ぐらい
分解してみると、電話機能は第2世代のGSMだけ。無線LANとBluetoothの機能はあるが、本物が搭載している近距離無線通信のNFCは見当たらない。画面の縦横を入れ替える際に使用する加速度センサーは搭載しているようだが、センサーIC(集積回路)の製品名やメーカー名は確認できなかった。地磁気センサー、ジャイロ、気圧センサー、照度センサー、近接センサーは積んでいないようだ。
リチウムイオンポリマー二次電池は3.7V、容量は1200mAhで正規品より約600mAh少ない。OSはAndroid(アンドロイド)を搭載しているらしい。結局、本物のiPhone 6と同じなのは4.7型というディスプレー寸法などの外見だけだった。
心臓部は模造品で一般的なメーカー製
心臓部となるチップセットは、台湾の大手半導体メーカーであるMediaTek(メディアテック)の製品を搭載する。このiPhone 6模造品に限らず、中国製の模造品では山寨機(シャンジャイジ:通信機器として政府の認可を受けていない非合法の携帯電話機)が普及して以来、MediaTekのチップセットがよく使われている。
スマートフォン(スマホ)のチップセットとは、通信機能に関連する基本部品のことで、通信IC(RFトランシーバー)、ベースバンドプロセッサー、アプリケーションプロセッサー、電源管理ICで構成される。
MediaTekの特徴は、チップセットだけでなく設計図を含む「参照デザイン」をメーカーに提供することだ。おかげで通信機製造のノウハウを持たない家内工業レベルの弱小メーカーでも、携帯電話やスマホを簡単に作ることができるようになった。同社のチップセットは安さもウリにしており、カタログスペックが同じであれば、その価格は同分野の世界最大手である米Qualcomm(クアルコム)製チップセットの半値程度と言われる。
このこと自体は異業種からの参入障壁を取り払う意味のあることなのだが、参入が手軽になった結果として、知的財産の尊重などの遵(じゅん)法意識の欠如したメーカーによる模倣品、いわゆる山寨機が数多く出回るようになった。
一般的な山寨機よりコネクター多い
本物のiPhoneの基板は電子部品が隙間なく実装されているが、搭載機能が少ない本機の基板は"空き地"が多く、メーン基板のバッテリー側に至ってはガラ空きである。廉価な山寨機は基板のカット代を節約するため、基板の形状は筐体全面を覆う長方形であることが多い。だが、本機では基板をL字型にカットしてバッテリースペースを確保する構造となっている
チップセットは前述のように、MediaTek製だ。RFトランシーバーは「MT6166V」。ベースバンドプロセッサーとアプリケーションプロセッサーはワンチップ化された「MT6572A」、電源管理ICは「MT6323GA」である。無線LANとBluetoothもMediaTekの「MT6627N」を搭載する。
プロセッサーの隣にDRAMと思われる大きなICがあったが、型番からはメーカーを特定できなかった。写真や音楽を保存するフラッシュメモリーは、韓国Samsung Electronics(サムスン電子)製である。
伝統的な山寨機とやや異なる特徴の1つが、コネクターの多さだ。山寨機では基板に載らない電子部品の大部分をコストの安いハンダで接続する。本機にも同様の構造はいくつか見られたが、タッチパネル、カメラ、ディスプレー、バッテリーなど、多くの部品がコネクターで基板と接続されており、その分、コストアップになっているはずだ。
30ドル台の正規品と同等の実力
ディスプレーの対角寸法は4.7インチで、そこだけは本物と同じだ。しかしタッチパネルとディスプレーが接着されている本物とは異なり、両者は分離しているため、その分だけ厚みが増している。解像度は本物が1平方インチあたり326ドットであるのに対し234ドット。ディスプレーの部品コストは1000円以下と思われる。
カメラの画素数は不明だが、受光部の対角線寸法からして最大でも500万(5M)ピクセルと推定される。部品コストは500円前後、本物のiPhone 6に搭載されているカメラの4分の1程度と思われる。
スマホはLTEのような高速の通信回線があって、初めて本領を発揮する。第2世代のGSMしか使えない端末に出来ることは、音声通話とテキストメッセージのやり取り程度だろう。無線LAN環境がないと動画やWebサイトの閲覧は難しい。
この程度の性能のスマホなら、いまや正規品が30米ドル台で販売されている。安さをウリに中国市場を席巻してきた山寨機だが、もはや存在意義を失いつつあることがうかがい知れる。
[日経テクノロジーオンライン2015年4月8日付の記事を基に再構成]