米欧損保、石炭発電に見切り 引き受け停止相次ぐ
「ESG」重視で 広がる発電所の閉鎖・建設中止
【ニューヨーク=伴百江】米欧の保険会社で石炭火力発電所関連の損害保険の引き受けを停止する動きが相次いでいる。金融市場が環境・社会・企業統治(ESG)を重視する中、地球環境への悪影響が問題視される石炭火力発電所への関与はリスクが大きいと判断したためだ。保険に入れず、再生可能エネルギーの発電コスト急落で石炭が割高になったことも相まって、石炭火力発電所の閉鎖や建設中止の動きが広がっている。
米保険中堅アクシスは10月、石炭火力発電所の新規建設と運営、炭鉱のための保険引き受けを2020年1月から停止すると発表した。スイス大手チャブはこれに先立ち7月に同様の新規保険引き受けの停止を発表。エネルギーの30%以上を石炭に依存する電力会社への新規保険引き受けも停止する。
二酸化炭素(CO2)排出量が多い石炭発電への評価は厳しさを増す。先行する欧州では、仏大手アクサとスイスのチューリッヒ保険が17年に石炭関連会社への保険引き受けの一部停止を決め、独アリアンツと伊ゼネラリも18年に追随した。再保険会社のスイス・リーとミュンヘン・リーも再保険の引き受け縮小を決めた。
米保険仲介販売大手ウイリス・タワーズワトソンは「欧米勢の撤退や事業縮小で、石炭業界が保険を新規契約するのは難しい状況だ」と指摘する。発電所を運営する電力会社にとっては「保険がなければ事業の継続は不可能」(米環境団体)。保険各社の引き受け停止で石炭火力の閉鎖やシェア低下に拍車がかかる可能性もある。
国際エネルギー機関(IEA)によると、18年時点の世界の総発電量における石炭火力の比率は38%で、近年は頭打ち。特に欧州の比率は5%と、12年の39%から大きく低下している。
トランプ米大統領は支持層のラストベルト(さびた工業地帯)の炭鉱労働者に配慮して石炭産業を支援するが、石炭発電の衰退は止まらない。
米8州で約360万人に電力を供給する電力会社エクセル・エナジー(ミネソタ州)は、コロラド州の石炭発電所2カ所を25年までに閉鎖し、風力と太陽光発電に切り替えることを決めた。デビッド・イブズ社長は理由として環境への悪影響に加え「経済的理由が大きい」と説明する。
電力会社プラット・リバー・パワー・オーソリティー(コロラド州)も30年までに再生エネルギーに切り替えると発表した。「政治的理由ではなく、経済的現実を踏まえたためだ」(ゼネラルマネジャーのジェイソン・フリスビー氏)
技術革新で太陽光や風力発電などの発電コストが大きく低下したことも背景にある。米投資銀行ラザードによると、19年時点の石炭の発電コスト(発電所の建設、運営費含む)は1メガワット時あたり66~152ドル。一方、風力は同28~54ドル、太陽光は同32~42ドルと割安だ。約10年前は再生エネルギーの発電コストは現在の約3倍だった。
石炭発電の伸び幅は年々縮小している。調査団体グローバルエナジーモニターによると、石炭発電の純増量(新規発電所の設備容量から閉鎖された発電所の設備容量を引いた値)は15年から4年連続で減少し、18年は過去最低の19ギガワットだった。05年以降、世界の新規石炭発電所の85%を建設してきた中国とインドでも、18年には石炭発電所の建設許可申請件数が過去最低となった。
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