異次元債務に市場沈黙 カネ余りが促す大衆迎合
パクスなき世界 自由のパラドックス(3)
何を物差しに、政府の政策が適切かどうかを判断しますか――。
「小切手1枚では足りない」。米ニューヨークで9月、失業した若者らが所得保障を政府に求めた。米国は新型コロナウイルス対策で1人に最大1200ドル(約13万円)を配った。仮に同額を12カ月配ると、過去最大だった2020会計年度の財政赤字(330兆円)と同規模の財源が要る。
危機に救いを求める声が政府の借金を異次元の領域に押し上げる。国際通貨基金(IMF)によると米政府債務の国内総生産(GDP)比は20年に過去最高の131%。世界全体では99%とGDP規模に並ぶ。前例のない非常事態なのに、市場は沈黙したままだ。
第2次世界大戦後、手厚い福祉に傾いた米英など先進国の多くは財政悪化と物価高騰に苦しみ、1980年代から政府の関与を減らす「小さな政府」を志向した。福祉国家の代表格であるスウェーデンも90年代に財政悪化
新型コロナウイルスの危機は世界の矛盾をあぶり出し、変化を加速した。古代ローマの平和と秩序の女神「パクス」は消え、価値観の再構築が問われている。「パクスなき世界」では、どんな明日をつくるかを考えていく。