米、対イラン国連制裁復活を宣言 欧ロ中は認めず
【ワシントン=中村亮、ニューヨーク=吉田圭織】ポンペオ米国務長官は19日、イランに対する国連制裁が復活したと発表した。イランの核開発や武器調達を阻止する狙いだが、欧州やロシア、中国は制裁復活を認めない考えでイラン包囲網は広がりに欠ける。
ポンペオ氏は19日の声明で「トランプ政権は中東で最大の脅威の原因はイランだと理解している」と強調。主要国は制裁復活に同意していないが「米国は過去に解除した事実上すべての国連制裁の復活を歓迎する」と一方的に宣言した。
米国は今回の制裁復活でイランはウラン濃縮活動や弾道ミサイル開発を禁じられると主張。10月に期限切れを迎える予定の武器禁輸措置も継続すると訴えている。ポンペオ氏は禁じられた取引に関与した個人・企業に「米国の国内権限」を行使すると指摘し、米独自制裁の対象に指定する考えを強くにじませた。
一方、英仏独は18日、制裁復活に「法的効力がない」と訴える書簡を国連に提出。ロシアのラブロフ外相も18日公開のインタビューで、米政権が「イランを悪魔にしようとしている」と非難し、米国の一方的な制裁復活に反対する立場を改めて表明した。中国も制裁復活を認めない考えだ。
国連は、米中ロ英独仏とイランが2015年に同国の核開発を大幅に制限する核合意を結んだことを受け、イランへの制裁を解除した。だが、米国は18年5月に核合意の破棄を表明。国連安全保障理事会の決議は制裁復活の権限は合意の参加国だけが持つと定める。米国は、決議上では核合意参加国のままだと強弁するが国際社会の理解は得られていない。対イラン強硬派でトランプ政権の大統領補佐官(国家安全保障担当)を務めたジョン・ボルトン氏も米国の説明について「愚かに見える」と批判している。
コロンビア大のゲイリー・シック教授は「米国がこれ以上制裁を科せるものは非常に少ないためイランへの影響は小さい」と指摘する。米国はこれまでにイラン経済に打撃となる石油や金融部門を制裁対象に指定していた。イランは中国やロシアと経済・軍事協力を深めており両国が対イラン制裁に同調しない限り効果は薄いとの見方が多い。
イランなどは「制裁復活」を無視する構えだ。イラン国営メディアによると同国政府高官は8月下旬、ロシアを訪れて「(国連の)武器禁輸措置の失効後はロシアと防衛面の協力で新たな章が始まる」と述べ、ロシア製の武器購入に意欲を示した。訪問は米国が対イラン国連制裁の復活に向けた手続きを始めた直後で、米国の一方的な主張に応じないとのメッセージを発した。
トランプ政権は、イスラエルがアラブ首長国連邦(UAE)やバーレーンと結んだ国交正常化合意を仲介した。共通の敵とみなすイランに対する安全保障協力を深める狙いだ。イランは核合意の履行義務を相次いで停止し中東では脅威が高まったとみなされているが、米主導のイラン包囲網の構築は道半ばだ。
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