台湾、米と経済協議 脱中国・供給網構築 FTA探る
【台北=中村裕、ワシントン=永澤毅】米中対立が激しさを増すなか、米国と台湾が経済連携で急接近している。中国の反発を押し切り、17日に台湾を訪問したクラック米国務次官(経済成長・エネルギー・環境担当)は18日、台湾の蘇貞昌行政院長(首相)、王美花経済部長(経済相)と相次ぎ会談した。
米台双方が17日午前に台北市内で開いた会談では、今後の経済連携の方向性を確認した。内容は主に3項目で、中国排除を狙った対策に集中したのが特徴だ。
今回は意見交換の位置づけだが、米台が近く設置する経済連携協議を定期的に行う枠組み「新たな経済対話」のベースとする。台湾側は米との自由貿易協定(FTA)の締結に向けた強い意欲も伝えたもようだ。
台湾側はクラック氏の訪台を1979年の米台断交後、「最高位」の国務省高官の訪問だと歓迎している。同日午後には複数の台湾企業と接触して連携強化を図った。蔡英文(ツァイ・インウェン)総統主催の晩餐会にも出席し、米台の友好を確認した。
午前の米台高官の会談では具体的にはまず、生産など過度な中国依存から脱却し、米台が協力して新たなサプライチェーン(供給網)を構築する方向で意見交換した。さらに半導体問題、中国企業からの投資受け入れ審査の厳格化の3項目を話し合った。
米国が台湾への関与を強める背景には、世界の半導体の約7割を受託生産する台湾の半導体産業との強い結びつきがある。台湾には、台湾積体電路製造(TSMC)を筆頭に、最先端の半導体を開発・製造できる企業が集中。軍事兵器や次世代通信規格「5G」などで中核技術を担う重要な企業が集まる。
「仮に台湾が中国から軍事的な攻撃を受ければ、米台だけではなく世界のあらゆる基盤が揺らぐ」(台湾の軍事専門家の蘇紫雲・国防安全研究院所長)。中国との対立が深まる米側でも警戒が高まっている。
将来の安全保障をにらみ、米台はすでに動いている。米政府は昨年からTSMCと水面下で最先端の半導体の生産を米国でするよう交渉を重ねた。TSMCは5月、海外初の最新鋭工場建設を中国ではなく米国に決めた。米政府の支援を受け2024年をメドに稼動し、投資額は120億ドル(約1兆3000億円)になる見込みだ。
最先端の半導体や5G技術を多く使うサーバーも世界の9割は台湾メーカーが受託生産する。米国は安全保障の観点から最近は中国大陸の生産品は避け、台湾などで生産される製品に発注を傾けている。鴻海(ホンハイ)精密工業は年間4兆円弱のサーバーを生産するが、台湾とメキシコで生産する多くを、米アマゾン・ドット・コムや米マイクロソフトなど米企業に供給する。
5G関連も同様だ。米国が今年発表した世界の安全な通信会社31社を挙げた「ホワイトリスト」で世界で最多となる5社を台湾から選んだ。
トランプ米政権は台湾支援の姿勢を鮮明にしており、相次ぐ台湾への高官派遣もその一環だ。スティルウェル米国務次官補(東アジア・太平洋担当)は17日の上院外交委員会の公聴会で「中国が台湾を苦しめるのを防ぐため、米国は(武器売却など)様々な手段をとる」と強調。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは16日、巡航ミサイルなど総額70億ドルにのぼる大型売却案件を台湾向けに検討中だと報じた。
米台の急接近に中国はいら立つ。外務省の汪文斌副報道局長は17日の記者会見で「米台の高官の往来を直ちに停止せよ」と発言した。国防部の任国強報道官も18日、台湾海峡周辺で大規模な軍事演習を同日始めたと発表し、「米国と台湾は共謀して頻繁にトラブルを起こしている」と批判した。