気候危機、世界経済むしばむ 30年までに250兆円損失
世界で記録的な猛暑が続いている。6、7月の気温は史上最高となり、欧州各地でセ氏40度を超え記録を更新した。北極圏では氷河の融解や山火事が相次ぐ。国際労働機関(ILO)は暑さで労働時間が減り、2030年までに世界で計2兆4千億ドル(約250兆円)の経済損失が生じる恐れがあると試算する。国連のグテレス事務総長は「気候危機だ」と警告し、9月の気候変動サミットに緊急対策を持ち寄るよう指導者に呼びかけたが、解決策は見通せない。
米海洋大気局(NOAA)は15日、世界の7月の平均気温が20世紀平均を0.95度上回り過去最高だったと発表した。6月も過去最も暑かったが、2カ月連続の更新となる。過去5年間の7月の気温はいずれも上位5位以内で、1880年の観測開始以来、気温の上昇傾向は加速している。
7月末にはフランスや英国、ドイツなど欧州各地で過去最高気温を更新した。パリでは7月25日、セ氏42.6度と72年ぶりの記録となった。昨年7~8月のパリは平均最高気温が約25~26度で、冷房がない家庭も多い。
この日の前後には、仏独やスイスなどで高速鉄道の一部運行が取りやめられた。暑さでレールが変形する恐れがあるためだ。仏独の複数の原発は冷却水の温度が上がり、運転を一時停止した。
熱波は大部分が北極圏に位置するグリーンランド(デンマーク)にも及ぶ。8月1日の一日だけで125億トンの氷河が解け、一日の融解量として過去最大となった。米メディアによると、6~7月に解けた氷は2400億トンに達し、海面の上昇は避けられない。7月の北極圏の海氷面積は平均より約2割小さく、過去最小となった。
世界気象機関(WMO)によると、シベリアなどの北極圏では大規模な山火事が6月以降100件以上起きた。北極圏での山火事多発は極めて異例という。6月のシベリアの平均気温は平年より約10度高かった。
温暖化の影響は暑さだけではない。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は8日公表の報告書で、50年に穀物価格が最大23%上昇する恐れがあるとする試算を示した。干ばつや洪水が増えて農業の収率が下がり、食料の安定供給に影響が出ると指摘した。
「これほど異常な暑さは初めてだ」。砂漠が広がるインド北西部のラジャスターン州チュル市で、30代の建設作業員の男性がため息をついた。
チュル市は6月上旬、インド国内最高の50.8度を記録した。作業員約10人で戸建て住宅を建てているが、昼は熱すぎて働けず、午前中と午後6~10時の作業に切り替えた。バンダナを巻いて強い日差しを避け、こまめな給水が欠かせない。
ILOは7月の報告書で、異常気象によって30年までに世界の労働時間が現状より平均2%減少すると試算した。地域別では5.3%の南アジアや4.8%の西アフリカなどが大きい。屋外作業が多い建設業と農業への影響が深刻で、途上国への打撃は避けられない。
「気候サミットに美しいスピーチはいらない。具体的な計画を持ってきてほしい」。グテレス国連事務総長は1日の記者会見で、指導者に呼びかけた。9月の気候サミットを理念的な演説だけのイベントにしたくないという危機感が透ける。
ただトランプ米大統領が地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」から離脱を表明するなど、主要国の足並みはそろわない。「反対する一部の人を長々と待たず、参加したい人を募るべきだ」とマクロン仏大統領は主張するが、多国間協力の機運は欠いたままだ。
(ブリュッセル=竹内康雄、ニューデリー=馬場燃)