ベトナム初のLNG基地、2022年稼働
石炭火力逆風で期待高まる
【ハノイ=大西智也】ベトナム国営石油最大手ペトロベトナムグループは同国初の液化天然ガス(LNG)基地の建設に乗り出す。約300億円を投じ、月内にも南部でLNGタンクなどの設備を建設し、稼働する2022年には年100万トンを生産する。同国は年10%のペースで電力需要が拡大し、20年にも電力が不足する可能性がある。計画上は石炭火力依存が続くが、新増設は難しくなっており、LNG火力発電への期待が高まっている。
ペトロベトナム傘下のペトロベトナムガスは月内にも南部のバリアブンタウ省チーバイ地区にLNG専用の受け入れ基地やタンクの建設を始める。ベトナム初のLNG受け入れ基地として年100万トン規模の生産設備を建設。将来は3倍の年300万トンにする計画だ。
近隣のドンナイ省にはペトロベトナム傘下のペトロベトナム電力総公社(PVパワー)がLNG火力発電設備を2基(合計150万キロワット)を建設する方針。投資額は1500億円規模。チーバイで受け入れたLNGは同火力発電所などに供給する。
同業大手のペトロリメックも日本の石油元売り最大手のJXTGエネルギーとLNG事業の協業で7月に覚書を結んでいる。ベトナムでは10カ所程度のプロジェクトが進んでおり、20年代中盤以降に相次いで専用基地やLNG発電設備が稼働する見通しだ。
ベトナムの電源構成は石炭火力と水力が占める割合がそれぞれ4割程度、国内で生産した天然ガスを利用した発電設備は約15%とされる。太陽光発電や風力などの再生可能エネルギーの導入も進んでいるが、経済発展による電力需要の急拡大に対応できずにいた。
ベトナムは南北に約2000キロメートルの長さがあり、南北間での電力の融通は効率が悪く送電網の拡充にも限界がある。それぞれの地域で電源を抱える必要があるが、特に全体の需要の半分を占めるホーチミン市を中心とした南部地域で需給が逼迫している。
ベトナム政府が公表した電力需給予測では、21年以降に年間40億~120億キロワット時の電力が不足する見通しを示している。南部では早ければ20年に電力不足による停電が発生する可能性があるとの見方が出ている。
ベトナムでは主力電源の開発が思うように進んでいない。水力発電は渇水などを理由に稼働率がたびたび低下。9月下旬の現地報道によると、北部の主力ダムの水が満水時の半分程度しかない。新増設に適した場所も少なく、不安定な水力発電への依存が難しくなってきている。
主力電源の一つである石炭火力発電は、環境問題の観点から新増設計画に国際社会からの批判が根強い。「発電コストは安いが、政府は石炭火力発電所の建設には慎重になっている」(電力業界関係者)とみられている。
ベトナムの天然ガスの生産量は2020年代前半から減少する見通し。領有権を争う南シナ海で新規の天然ガスの採掘を狙っているが、中国からの妨害活動もあり、思うように進んでいない。政府は経済活動の根幹である安定した電力供給を続けるために、LNG発電設備の建設を急ぐ方針だ。
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