トランプ氏「FRBはクレージー」
トランプ米大統領が中央銀行の米連邦準備理事会(FRB)を「クレージー」と2回も連呼した。米国株の急落について記者団から質問が飛び、「FRBは間違っている。締めすぎている。FRBはクレージーだ。株価急落は我々が長く待ち構えていたところだが、FRBのやり方には賛成できない」と語ったのだ。
一昨日も「FRBはやるべきことをやっている。しかし、私は気に入らない。インフレは抑制されている。利上げは急ぐ必要はない。ただし、この件についてパウエル議長とは話していない。私は関与しない」とFRBの利上げを批判していた。とはいえ、FRBの政治的独立性は尊重するとの発言で、市場には安堵感さえ流れていた。
しかし、いよいよ中間選挙も迫る時期にダウ工業株30種平均が800ドルを超える急落を演じたことに、明らかに焦りを感じているようだ。トランプ氏は株価を経済政策の通信簿(スコアカード)と位置付け、株価が上がったときには自らの功績として自画自賛してきただけに、FRBに責任転嫁したのか。
10日の米国株急落が残した最大の問題は、トランプ政権とFRBの間のあつれきであろう。ここまで強い口調で「禁句」までも飛び出しては、しこりが残るのは必至とみられる。
さて、問題の米国株急落についてだが、特に新たな大きな要因が出たわけではない。あえていえば、ムニューシン財務長官が英フィナンシャル・タイムズ(FT)とのインタビューで「人民元安が看過できない」と語り、米中対話の悪化が材料視されたこと。そもそも米中冷戦状態が激化していること。米10年債利回りが一時3.2%台まで急騰したこと(10日終値は3.1%台まで低下した)。加えて、昨日は原油価格の下落も重なった。これらの複合要因によって売りが売りを呼ぶ連鎖が生じた。
テクニカルには、膨張していた米国株の買いポジションが巻き戻された。特に、中間選挙という大きな不透明要因を前に「身辺整理」的なポジション整理がみられた。
米株式市場はこれから決算シーズンに入る。そもそも金利上昇は米国経済の好調の証しでもある。それゆえに、このまま下げ続ける市場環境ではない。
相場にはつきものの乱高下だが、トランプ大統領とFRBの間に「遺恨」を残したことが気がかりである。
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
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