カルト、SNSで若者狙う 地下鉄サリン25年
「新しいこと始めませんか」。ある学生サークルのツイッターアカウントには、メンバーが笑顔で納まる集合写真とともに勧誘の言葉が並ぶ。定期的に体育館に集まりスポーツを楽しむとうたっている。カルト対策に詳しい東北学院大の川島堅二教授によると実態はカルト集団だ。
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川島教授は、このサークルのイベントに参加すると、キリスト教系の新興宗教団体の勉強会に誘われるようになることを調査でつきとめた。「SNS(交流サイト)などで宗教をにおわせないサークルへ誘い、親しくなってからカルトの正体を明かす手法が増えている」と話す。
近年、SNSで信者を勧誘するカルト宗教団体の動きが目立つ。本来の活動内容を隠し、若者を取り込むやり方は地下鉄サリン事件を起こしたオウム真理教にも通じる。
大学受験する高校生の応援サイトを装ったケースも確認された。受験テクニックや合格体験記を紹介しながら、個別相談を通じて高校生と無料通信アプリLINE(ライン)を交換。趣味や家族構成などを聞き出してデータを集め、進学後に積極的に勧誘するという。
法人格を持たずに活動する集団も多いとみられ、公安関係者は「SNSの普及で集会や拠点がなくても勧誘できる。カルトの実態はより見えにくくなっている」と話す。
地下鉄サリン事件の当時、松本智津夫元死刑囚(麻原彰晃、執行時63)は40歳。教団幹部の大半は30代で、当時の新興宗教の中でも若者の多さが際立った。松本元代表は人類が1999年に滅亡するという「ハルマゲドン」(世界最終戦争)を強調して危機感をあおり、若者をひきつけた。
87年に当時大学生の長男がオウム真理教に入信した永岡弘行さん(81)は異変を鮮明に覚えている。「人のために何かできるか考えたことはある?」と突然問いかけ、資産状況を尋ねたり、自分の部屋を散らかしたりした。後に全て教団の指示だったと分かった。
長男は90年に脱会した。それでも、教団の思想を完全に払拭するのには10年かかったという。永岡さんは「家族で長い時間を共に過ごし、意見が合わなくてもこちらの考え方を押しつけるのではなく、対話を続けた」と振り返る。
「カルト宗教のマインドコントロールは本人と家族の人生に大きな傷を残す。同じように苦しむ人を出してはいけない」と語気を強める。
公安調査庁によると、オウム真理教の後継となる「アレフ」など3団体は15都道府県に計32施設を持ち、国内の信者数は約1650人。特にアレフは若者を中心に信者の獲得を進めており、近年は年間100人近くが入信しているという。同庁担当者は「事件を知らない若い世代が狙われやすい」と指摘する。
大阪大はカルト集団とみられる不審な勧誘がキャンパス内であったことを受け、注意喚起する動画を2017年に投稿サイトに公開した。「近くでカフェを知りませんか」「アンケート調査に協力を」などといって接触し、連絡先を聞き出す手法を紹介している。各大学も新入生向けにカルト対策講座を開くなどして注意を呼びかけている。