インド、強権でデモ抑えこみ 全土で通信・集会禁止
【ニューデリー=馬場燃】インドでイスラム教徒以外の不法移民に国籍を与える改正国籍法を巡る混乱が拡大し、モディ政権は強権を発動してデモ活動の抑えこみに動き始めた。インターネットなどの通信遮断や集会禁止の措置が全土に広がり、市民は一段と反発を強めている。首都ニューデリーでは1200人超の拘束者が出ており、影響は地下鉄や航空便の運行の停止にも及ぶ。
改正国籍法は2014年末までにインドに不法入国したバングラデシュ、アフガニスタン、パキスタン3カ国の出身者のうち、ヒンズー教徒、キリスト教徒、仏教徒などの6つの信者にはインド国籍を与えるが、イスラム教徒だけは除くものだ。
当初はイスラム教徒の学生を中心にデモが起きたが、いまは宗教、年齢を問わず、幅広い世代が「改正案は差別的だ」と抗議が広がっている。インド最高裁は18日に施行停止の要求をいったん棄却したが、20年1月22日に改めて審理する。
デモ拡大を受け、モディ政権は危険行為を抑える法律を根拠に、19日にニューデリーの一部でネット、携帯電話、SNS(交流サイト)の通信を遮断した。首都で通信が遮断されたのは初めてとみられる。通信禁止は、ニューデリーに隣接するウッタルプラデシュ州、北東部のアッサム州、南部のカルナタカ州などに拡大している。
デモの扇動につながる大規模な集会を禁じる措置もニューデリーや南部ハイデラバードなどの広範な都市で発動された。それでもデモはおさまらず、デリー警察は19日、ニューデリーで少なくとも1200人を一時拘束した。抗議に参加する市民からは「ネットは遮断できても、人々の反対は抑えられない」との声があがり、ニューデリーでは20日も千人規模で抗議が続いている。
警察による監視強化などに伴って、ニューデリーでは19日、地下鉄の運行が約20駅でとまった。約300の航空便にも遅れが生じ、市民生活にも影響が及び始めた。警察との衝突によって死者も出ており、一部の地域では外出禁止令が続く。
モディ政権は8月にカシミール地方の自治権を剥奪した後も同地方の通信を遮断し、集会を禁止する措置をとった。4カ月が過ぎてもネットがつながらないままで、カシミールでの領有権を争うパキスタンは「基本的な人権を侵害している」と強く批判する。デモ拡大を受け、強権的な措置がインド全土に波及しており、現時点では混乱が収束する兆しはみえない。