宴会の無断キャンセルで裁判も 飲食店、悪質客に対抗
大人数の宴会の予約を入れながら当日に現れず、連絡も取れない――。こうした無断キャンセルに対し、飲食店が民事訴訟などで対抗する動きが広がり始めた。手軽な予約サイトにより無断キャンセルは増えている。忘年会シーズン、スマホからの「とりあえず」予約が大きなトラブルを招きかねない。
東京・歌舞伎町のバーに40人分のコース料理の予約が入った。電話をかけてきたのは若い女性。料理は1人当たり3480円、店は貸し切る、という内容だった。しかし団体客は現れず、予約をした女性とも連絡が取れない。夜遅くに電話がつながったものの「担当者が折り返す」と言ったきり、音信不通になった。
何度も無断キャンセルで損失を被ってきた同店は、損害賠償を求めて女性を提訴。東京簡裁は2018年3月、女性に13万9200円の支払いを命じる判決を言い渡した。無断キャンセルに関する司法判断が示されたのは珍しいという。飲食店のトラブルに詳しい石崎冬貴弁護士は「泣き寝入りすることが多かった店側が厳しく臨むようになってきた」と話す。
経済産業省の有識者勉強会の報告書によると、飲食店の予約全体のうち1%弱で無断キャンセルが発生している。食材や人件費などの無駄は年2千億円に上り、席だけの予約でも別の客を入れられない分が損失となる。
予約をめぐる刑事事件も起きた。「金曜夜に17人、1万円のコースに3千円の飲み放題をつけて」。6月、東京・有楽町の居酒屋に「スズキ」と名乗る電話があった。しかし当日、店には誰も来ない。系列店に確認すると他の4店でも「スズキ」名の予約が無断キャンセルされていた。
店側は被害が51万円に上ったとして警視庁に被害届を提出。同庁は11月、職業不詳の男(59)を偽の予約を入れた偽計業務妨害容疑で逮捕した。男は「系列店でのサービスに不満があり、嫌がらせしてやろうと思った」と供述したという。
飲食店予約サービスの「テーブルチェック」(東京・中央)が11月に無断キャンセルの経験がある客に理由を尋ねたところ「とりあえず場所を確保するために予約」(34%)や「人気店なのでとりあえず予約」(32%)が多かった。予約手段はグルメサイトの利用が51%と最も多く、ネットを通じ無計画に予約する傾向が見て取れる。
飲食店でつくる業界団体などは無断キャンセルをした客に対して料金を請求する指針を18年11月にまとめた。キャンセル料はコースを予約した場合は支払予定額の全額、席のみの場合は平均客単価から計算するなどの目安を示している。
全国8万の飲食業者などが加盟する全国飲食業生活衛生同業組合連合会(東京・港)の小城哲郎専務理事は「無断キャンセルは経営を脅かす。不要な予約がなくなれば、人気店を予約しやすくなり、同じ価格で料理をアップグレードできるなど消費者にもメリットがある」と話した。