ノートルダム寺院、再建の道筋は
石材被害、難度を左右
【パリ=白石透冴】火災で焼損したパリのノートルダム寺院について、マクロン仏大統領は16日夜(日本時間17日未明)のテレビ演説で「5年以内に再建したい」と語った。焼失した木造部分のほか、石材の構造も高熱で損傷した恐れがあり、修復の難度に影響するとみられる。崩壊した尖塔(せんとう)の再建については国際コンペが行われることになった。
火災では「小屋組」と呼ばれる屋根の木造部分の約3分の2が焼失し、尖塔が崩壊した。石材とモルタルの構造部分が直ちに倒壊することはなさそうだが、熱で石材の水分が抜けてもろくなったり、モルタルに消火の水が入って石材の接着が弱まったりしている可能性はある。
東北大の五十嵐太郎教授(建築史)は、ノートルダム寺院のようなゴシック建築について「下から石材を積み上げていき、木造の小屋組は最終段階で造る」と説明。再建には数十年かかるとの見方もあるなか「小屋組だけなら復元はそれほど困難ではない。石材がどれだけダメージを受けたかが焦点になる」と話す。
ノートルダム寺院は1163年から200年かけて完成。焼失した屋根の一部には建築当初の木材が使われていた。東京文化財研究所の金井健・保存計画研究室長は「全く同じ素材や工法で復旧するのは、時間と金がかかり過ぎて現実的ではない」としている。
歴史的建造物の保存修復に詳しい工学院大の後藤治教授によると、欧州では1972年に仏ナント市の大聖堂、84年に英ヨーク市の大聖堂で火災が起き、小屋組が焼失。いずれも再建の際、外観は忠実に再現されたが、内部には鉄骨などの素材が使われたという。後藤教授は「今回も同様になるだろう」とみている。
崩壊した尖塔は19世紀にデザインを変更して当初より高く建て直されたもの。尖塔についてはフィリップ仏首相が17日、国際コンペで再建のアイデアを募ると発表した。「同じものを造るのか、現在の技術と人々の関心に合わせたものを造るのか、といった疑問に答えるため」と説明した。
2018年11月に死去したベルギーの建築史家、故アンドリュー・タロン氏は15年、ノートルダム寺院の外観や内部構造をレーザースキャナーで測量し、誤差5ミリメートル以内の詳細な3Dモデルを作成していた。再建にはこうしたデジタルデータも活用されるとみられる。
マクロン大統領は「ノートルダム寺院をさらに美しく再建する」と力を込めた。文化や歴史に強い誇りを持つ国民性だけに、今後、再建のスピードだけでなく高いレベルでの復元も求められることになりそうだ。