増える「家族葬」専用ホール 参列者10年で4分の1に
中部地方を中心に葬祭サービスを展開するティアが親族やごく親しい知人だけ招く「家族葬」に特化した会館を増やしている。2021年9月期には現在の4倍の20館に引き上げる。冠婚葬祭の愛昇殿を運営するレクスト(名古屋市)もリビングのような会場施設を拡大する。高齢化で葬儀1件当たりの参列者数が10年で4分の1に減っており、高まる安価な葬儀需要に対応する。
ティアは18年9月に同社として初の家族葬専用ホールを出店して以来現在5ヶ所の会場を運営し、8月は新たに3会館を開く。21年9月期までの2年間は、新規に出店するすべての直営店を家族葬専用の施設にする。同期には、連結売上高で前期比2割増の146億円、全店舗数は同じく3割増の152店を見込む。
7月27日に名古屋市でオープンした家族葬向け会館は、30人程度の参列者を想定した小規模の会館だ。料金は税抜きで30万円から(返礼品、食事の代金などは除く)と従来の8割に抑えている。葬儀は1日1組限定で、親族だけでくつろげる環境を用意する。
リサイクルショップを改装し出店した。延べ床面積は約200平方メートルと同社の従来の会館と比べ半分ほどだ。小規模のため、クリーニング店やコンビニエンスストアなどを改装した出店も可能にした。工期は4分の1以下、建設費は6割ほどに抑えられるという。同社の辻耕平専務は「良い物件が見つかり次第取得していきたい」と話す。
国立社会保障・人口問題研究所などの調査によると29年の年間の死亡人口は160万人と19年比で約15%伸びる見通しだ。葬儀件数が増えるため、新しい会館が必要とされている。一方でティアの葬儀の平均参列者は35人と約10年で4分の1に減少した。参列者の減少に伴い葬儀1回当たりの単価も約15%下落しているという。大規模の会場では採算が合わないと判断し、小規模会館拡大にカジを切る。
高齢化で、企業などを退職してから亡くなるまで、10年以上経過するケースが増えた。そのため、会社の同僚などと疎遠になり、葬儀に足を運びにくくなった。さらに、少子化によって親族の数も減り続けている。「今後も参列者の減少は続くだろう」(ティア)という。
葬祭大手の「メモリアルアートの大野屋」が18年に発表した調査によると、70歳以上の約6割が家族葬を希望している。しきたりの簡素化や高い葬儀費用を避ける傾向が強まったことが背景だ。
競合も家族葬向けの会館を広げている。レクストは18年からリビングのような空間で葬儀をする「ハウスセレモニー」を展開している。ソファやテレビなどが配置され、ゆったりと葬儀を行えると好評だ。現在4つの会館が対応しており、今年中に新しく2つの会館を開く予定だ。
(植田寛之)
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