トランプ氏の捜査妨害、可能性「排除せず」
ロシア疑惑報告書
【ワシントン=中村亮】米司法省は18日、2016年の大統領選にロシアが介入した疑惑の捜査報告書を公表した。トランプ大統領が捜査を妨げた疑惑について「全く妨害はなかったと確信できるならば妨害はなかったと明言したい。だがそのような判断には達しなかった」と強調した。10件の疑惑行為があったと指摘し、完全無実を証明できなかったとの見解を示した。
報告書は捜査を仕切ったモラー特別検察官が作成し、3月下旬に最終責任者のバー司法長官に提出した。全体で448ページにのぼるが、個人のプライバシーや継続中の捜査に関わる部分は黒塗りにした上で公開された。
バー氏は18日の記者会見で、トランプ氏の捜査妨害疑惑について「証拠不十分だ」との結論を示した。「モラー氏と法律の論理で同意できないことがあった」とも言及した。捜査妨害の有無を判断しなかったモラー氏との隔たりが改めて鮮明になった。野党・民主党は、バー氏がトランプ氏に有利な判断を意図的に下したと疑っており、追及を強める可能性がある。
報告書は捜査妨害を疑わせるトランプ氏の言動を次々と明らかにした。17年5月に疑惑捜査を担当したコミー前米連邦捜査局(FBI)長官を解任した理由は「コミー氏が捜査対象にトランプ氏が含まれていないと公言するのを渋ったからだという数多くの証拠がある」と説明した。トランプ氏が17~18年に捜査への関与を控えていたセッションズ司法長官(当時)を翻意させ、同氏を通じて捜査に影響を及ぼそうとした疑いも調べた。
17年6月には当時のホワイトハウスの法律顧問ドナルド・マクガーン氏に電話をかけて、モラー氏の解任を司法省に指示するよう働きかけた。マクガーン氏はウォーターゲート事件の捜査で特別検察官の解任をきっかけに辞任したニクソン元大統領の事例を引き合いに出してトランプ氏の指示を拒否した。
モラー氏は報告書で「捜査に影響力を及ぼそうとするトランプ氏の試みはほぼ成功しなかった」と指摘した。一方で「それはトランプ氏の周辺が命令を拒んだり、しぶしぶ受け入れたりしていたからだ」と強調した。トランプ氏の指示が司法妨害と紙一重であることをうかがわせる。
不正疑惑が相次ぐ中で、モラー氏はトランプ氏の意図を突き止めることに苦慮した。捜査妨害を裏付けるには、本人に悪意などがあったかを「合理的な疑問がなくなるまで証明する必要がある」からだ。
トランプ氏は18年11月に捜査に対して書面回答したが、その内容は「不十分」だった上に捜査妨害は質問の対象外だった。聴取を強制する召喚状を出す案も浮上したが「捜査が大きく遅れかねない」として断念した。大統領召喚の是非は法廷闘争に至る可能性が高かった。現職大統領は原則として起訴できないことも結論見送りの一因とみられる。
トランプ氏の選挙陣営がロシアと共謀した疑惑についても、立証が難航したのが当事者の「意図」だった。トランプ氏の長男ジュニア氏は大統領選前にライバルのクリントン元国務長官に打撃を与える情報を持ちかけたロシア人弁護士と面会した。選挙活動法は陣営が外国人から支援を受けることを禁じるが、モラー氏は「(ジュニア氏が)故意に法律を犯したと証明するのが難しい」として起訴を見送った。
ただ報告書はトランプ陣営とロシア政府の緊密な関係を明らかにした。「ロシア側は選挙支援やトランプ氏と(ロシアの)プーチン大統領の面会などを持ちかけていた」と指摘した。大統領選中の民主党の機密流出にはトランプ陣営が「選挙で恩恵があると期待していた」という。機密はロシア軍がハッキングし、内部告発サイト「ウィキリークス」が公開していた。
トランプ氏もロシア疑惑捜査に肝を冷やした。17年5月にモラー氏が特別検察官に任命されたと報告を受けると「これで私の大統領職もおしまいだ」とうなだれた。「(捜査は)何年もかかり私は何もできなくなる。人生最悪のことだ」と嘆いた。その場にいたセッションズ司法長官に「なぜこんなことになるんだ」と怒りをぶちまけた。
ドナルド・トランプ元アメリカ大統領に関する最新ニュースを紹介します。11月の米大統領選挙で共和党の候補者として、バイデン大統領と再び対決します。「もしトラ」の世界はどうなるのか、など解説します。