黒田日銀総裁会見の要旨 「緩和、かなり長い期間」
問 今回の決定内容について。
答 強力な金融緩和を粘り強く続けていく方針をより明確に示すため、フォワードガイダンスで少なくとも2020年春ごろまで現在の長短金利の水準を維持すると決定した。適格担保の拡充や上場投資信託(ETF)貸付制度の導入など4つの措置も決めた。
問 金融緩和の強化や追加緩和ということか。
答 海外経済の動向をはじめ、経済・物価の先行きをめぐる不確実性は大きく、物価安定の目標実現にはなお時間がかかる。強力な金融緩和を粘り強く続けていく方針をより明確に示すことが重要と判断した。
問 平成で最後の定例会合となった。
答 平成時代の金融政策はデフレとの闘いだった。バブル崩壊以降の景気悪化で潜在成長率や自然利子率、物価上昇率は低下した。リーマン・ショックや欧州債務危機、東日本大震災なども大きな試練だったが、非伝統的な政策手段を活用し、デフレではない状況で平成の終わりを迎えることができた。
問 「少なくとも20年春ごろ」と示したのはなぜか。
答 以前は「当分の間」としてきたが、消費税率の引き上げ予定の10月が近づくにつれ、時間軸が分かりにくくなり、短く見られる懸念があった。世界経済の不確実性も大きな焦点となってきたため「当分の間」とはかなり長い期間であると明示した。「少なくとも」と言っているので、20年春より長くなる可能性も十分にある。
問 20年春以降に緩和縮小に向かう可能性は。
答 消費税が引き上げられたらすぐに金利を見直すのかととらえる向きもあったが、そんなことはない。世界経済は年後半に成長が加速する見通しだが、不確実性はある。20年春ごろまでは金利を引き上げる検討は全くない。それより先でもかなり長い期間にわたって継続する。20年春になったら何が何でも金利を見直すとは考えていない。
問 21年度末までに2%の物価安定目標は実現できないのか。
答 おおむね21年度に2%に達する可能性は低いが、これは前年比で、12カ月間の物価の動きを特定しているわけではない。21年度中に2%になる可能性が絶対ないとも言えない。
日銀は13年1月の政府との共同声明で、できるだけ早期に物価安定の目標を実現するとコミットしているし、そうなると信じている。デフレ脱却宣言は政府がすることだが、総裁就任から6年たっても目標を達成できていないのは大変残念だ。
問 自民党の萩生田光一幹事長代行は消費増税延期の判断材料に6月の日銀短観を挙げた。
答 財政運営は政府、国会の責任であり、具体的なコメントは控えたい。一般論として我が国の政府の債務残高が極めて高い水準になっており、中長期的な財政健全化について市場の信認を確保することが重要だ。
日銀短観は極めて包括的な調査で、金融政策を議論する上でも重要な指標。ただ短観はアンケートによるソフトデータであることを認識して短期的な企業の動向を見るために活用している。
問 ETF貸付制度導入の背景は。
答 市場関係者からの要望はあった。(売り注文と買い注文を提示して取引を成立しやすくする)「マーケットメーク」を証券会社に求めるにあたり、手持ちの在庫がないとやりにくい。日銀の保有はETF全体の7~8割にもなる。貸付制度の創設で市場がよりよく機能すると期待する。財務大臣の認可も必要なので実現までに時間はかかる。
問 地域金融機関の経営に対する認識は。
答 純利益の動向はよい水準で推移しているが、中身を見ると貸し出しによる基礎的収益は下がってきている。信用コストがこれ以上下がるとは考えにくく、株式などの売却益も少なくなっている。地方の人口減、企業数の減少という構造的な問題がある。(「金融システムリポート」では)10年先、あるいは大きな危機の到来を考えれば、合併や業務提携を含めた改革の努力をすることが必要だと指摘した。
低金利状況が影響していることも事実だ。だが金利が上がって、利ざやが拡大したらただちに銀行の収益が拡大するのだろうか。貸出金利が下がっていることで銀行の貸出量が増えている面もある。景気がよくなって物価が上がる中で金利が上がるのは当然だが、そうでない時に金利が上がったら、銀行の収益が必ずしも良くなるとは言えない。
問 金融緩和を続けても物価が上がらない「ジャパニフィケーション(日本化)」が欧米の中銀について話題になっている。
答 「欧米も」というより日本が特に時間がかかっているのは事実だが、現在のようなプラスの需給ギャップを続けていくことで、実際の賃金が上がって、予想物価上昇率が上昇し、徐々に物価が2%に向けて上がっていくモメンタム(勢い)は維持されている。
日本の状況が欧米の教訓になるということでは必ずしもない。経済が比較的好調なわりに物価が上がってこないという状況は似ていると思う。
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