タイ国会5年ぶり再開 与野党勢力図固まらず
議会攻防激化も
【バンコク=村松洋兵】軍事政権下にあるタイで24日、約5年ぶりに国会が招集される。民政移行に向けた大きな節目となるが、3月の総選挙(下院選、定数500)を受けた国会の勢力図はまだ固まっていない。軍政の政策を引き継ぐ親軍政党を中心とする連立政権の発足が見込まれるものの、国会での与野党攻防で政策実行のスピードが落ちる見通しだ。タイには約6000社の日系企業が進出しており、経済への影響を懸念する声も上がっている。
軍政下のタイで約8年ぶりとなった総選挙は反軍政を掲げるタクシン元首相派のタイ貢献党が136議席で第1党、軍政のプラユット暫定首相の再任をめざす親軍政党「国民国家の力党」が115議席で第2党になった。5月末ごろと見込まれる首相指名選挙は、軍政が事実上指名した上院(250議席)も投票に加わるため、親軍政党が推すプラユット氏の「続投」が濃厚となっている。
だが、親軍政党は法案を審議する下院で過半数を確保しなければ政権運営が行き詰まる。他党と連立を組む必要があるが、新政権の枠組みはまだ固まっていない。これまでに複数の中小政党と連立で合意して計140議席程度を固めたが、さらに110議席以上を上積みする必要がある。
カギを握るのが親軍・反軍の態度を保留している中堅政党の民主党(52議席)とタイの誇り党(51議席)だ。両党は連携で合意し、親軍政党と閣僚や下院議長の重要ポストを巡る駆け引きをしているとされる。プラユット暫定首相は21日の記者会見で「各政党が議論しているが、私は口出ししない」と述べ、両党の判断を持つ考えを示した。両党は国会で下院議長を選出する25日までに態度を表明する見込みだ。
ただ仮に親軍政党を中心とする連立政権が下院過半数を確保しても、軍政時代のようには政権運営を進められない。プラユット氏が持っていた行政・立法・司法のいかなる命令も下せる権限は、民政移行によって無くなり、連立する政党の意向をくんで政策を実行する必要が出てくる。
一方、貢献党を中心とする反軍勢力は計7党の連携で合意し、下院245議席を押さえている。タイの政界は引き抜き工作や造反が多い。「親軍勢力は下院で270~280議席を確保しないと安定政権にはならない」(タイ政治の専門家)との見方がある。
軍政はこれまで強権を用いて経済政策を推進してきた。バンコク東方の経済特区「東部経済回廊(EEC)」の振興に向けて、高速鉄道や港湾を整備する計画を打ち出している。タイ経済が専門の桃山学院大学の江川暁夫准教授は「反軍勢力は国会審議で徹底抗戦するとみられ、大型プロジェクトの実行が遅れる可能性がある」と指摘する。
タイには約6000社の日系企業が進出し、自動車や電機といった産業が集積している。EECにも多くの企業が工場を構えており、インフラ整備の遅れは経済活動の妨げになりかねない。
タイでは過去にたびたび政治対立が起こり混乱が生じた。14年には反政府勢力がバンコクの主要道路を封鎖し、経済活動がまひする事態となった。総選挙で親軍政党が第2党になったのは、治安の維持が評価された側面がある。ある日系自動車メーカーの幹部は「混乱が起こらないことが一番」と話し、民政移行で再び政治対立が激しくなることを懸念する。