住宅型REIT大手が急落 問われる内部留保の使い方
アイビー総研代表・関大介
国内の不動産投資信託(REIT)は上値が重い展開が続いている。12月初めにはこうした相場に影を落とす動きがあった。オフィス型最大手の日本ビルファンド投資法人に続き、住宅型大手の日本アコモデーションファンド投資法人が決算期中の増資を実施したのだ。
アコモファンドの投資口価格(株価に相当)は、増資を発表した翌日の12月2日に急落した。増資に伴って投資口数が増えて1口当たりの価値が下がる、いわゆる希薄化が嫌気されたからだ。
REITの増資は通常、決算期の初めに行われることが多い。希薄化が嫌気されて、増資の直後に投資口価格が急落しても、増資で取得した物件からの収益が加わって業績が拡大すれば、価格が反発して増資後の下落分の回復が期待できるからだ。
ところが、アコモファンドはビルファンドと同様に、決算期初ではなく、決算期末の2カ月以上前という異例のタイミングで増資に踏み切った。その意図が不明確な点が疑問視された。さらに、この2つのREITが内部留保を取り崩す形で分配金を維持した点についても問題があると私は思っている。ちなみに、この2銘柄は、三井不動産が運用会社のメインスポンサー(筆頭株主)である点でも共通している。
内部留保の取り崩しは増資による希薄化の穴埋め?
本題に入る前に、REITの仕組みを改めて説明しよう。REITは、保有する不動産から得る利益の大半を投資家に還元する仕組みになっている。ただし、例外として還元しない場合がある。一つは、合併時に発生する特別利益「負ののれん」。もうひとつは、税制特例などを利用して物件の売却益の一部(または全部)を内部留保にするケースだ。
今回フォーカスしたいのは後者の内部留保だ。税制特例の範囲内であれば、物件の売却益を投資家に還元せず内部留保に回すことができる。これは、将来の分配金安定に寄与するという名目で実施される措置だ。この場合、売却益は貸借対照表の純資産の部に圧縮積立金として計上されることになる。
内部留保は、投資家がその銘柄が長期投資に値するかどうかを判断する材料の一つにもなる。貸借対照表に圧縮積立金が多い銘柄なら、不動産賃貸の市況が急変しても、内部留保を取り崩すことで分配金をある程度維持できるからだ。
さて、ビルファンドとアコモファンドが行ったのは、先述のように決算期中の増資だ。増資によって投資口数は増えるが、増資によって新たに不動産を取得するのは次の決算期になる。投資口数の増加分に見合った収益の増加が今決算期中にはないので、1口当たり利益は希薄化することになる。
この希薄化の穴埋めとして、内部留保を取り崩すという構図だ。ビルファンドは19億円弱を、アコモファンドは2億円弱をそれぞれ取り崩す。結果として分配金は増資前の水準を維持する予定だ。
しかし、内部留保の活用は本来、不動産賃貸市況が悪化した時に行われるべきものだ。ビルファンドとアコモファンドは共に決算期中の増資の必要性を投資家に明示していないが、2銘柄の内部留保の使い方は市況悪化時の緊急対応には当てはまらないだろう。
REITは内部留保の使途を明確にすべき
折しも、時をほぼ同じくして、内部留保の活用の仕方に一石を投じる発表があった。オフィス型大手のジャパンリアルエステイト投資法人が11月17日の決算説明会で、明確な方針を示したのである。決算期末時点の内部留保の20分の1を目安に、毎期安定的に分配金へ充当するという。これは、20年9月末時点の内部留保37億円を、10年かけて投資家に分配することに等しい。
この方針が注目されるのは、内部留保の活用法を明示した点だ。これまで、内部留保の使い道は曖昧だった。だからこそ、ビルファンドやアコモファンドのように、増資の穴埋めに使うケースが生じていたといえる。
ジャパンリアルの方針には、今後売却益が発生した場合には内部留保からの分配を行わないなど、一定の留保事項がある。それでも高く評価できる。
私はこれまでも、REITの内部留保の活用法があまりにも漠然としている銘柄が多い点には疑問を感じてきた。分配金の安定という「お題目」だけで、具体的な活用方法について投資家への説明義務を怠っていると考えたからだ。
売却益の内部留保は、REITの運用会社の運営手法を柔軟にするためにあるのではない。投資家への利益の還元を先送りする側面もあることから、その意図について投資家に丁寧に説明することが求められる。
不動産証券化コンサルティング及び情報提供を行うアイビー総研代表。REIT情報に特化した「JAPAN-REIT.COM」(http://www.japan-reit.com/)を運営する。
[日経マネー2021年2月号の記事を再構成]
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