パキスタン、「一帯一路」の事業再開 中国への体面保つ
Nikkei Asian Reviewから
【カラチ(パキスタン)=アドナン・アーミル】パキスタン政府は新型コロナウイルスの感染拡大で中断していた中国の広域経済圏構想「一帯一路」の中核インフラ整備事業「中国パキスタン経済回廊(CPEC)」を再開するよう命じた。だが専門家は再開は中国への体面を保つためだとする見方をしている。
パキスタンの駐中国大使は19日、一定の期限までにCPECの全事業を完了させるよう手を打っていると地元メディアに述べた。米ジョンズ・ホプキンス大学の調べによると、パキスタンでの感染者数は21日までに9216人、死者数は192人だ。感染拡大が続く中での事業再開は、両国の外交関係をこじらせないようにする狙いがありそうだ。
米シンクタンク、ウィルソン・センターで南アジアを専門とするマイケル・クーグルマン氏は、再開で両国が重視する事業が「通常営業」であるというメッセージを発信していると指摘する。中国で感染拡大の第2波が警戒される中、公衆衛生の面からも事業再開を遅らせるべきだとする。
南アジア情勢に詳しい在米アナリスト、マリク・シラージ・アクバル氏も両国関係の緊密ぶりとインフラ建設への決意を世界に示すための再開と考える。本来なら、事業延期はイムラン・カーン政権が経済発展より国民の健康を優先していることを世論に訴える好機になるはずだからだ。
感染拡大でパキスタンでは152億9千万ドル(約1兆6480億円)の経済損失が出るとする見方もある。そうした中で一帯一路の経済性を疑問視する声も上がる。パキスタンの計画開発を担う計画委員会は、鉄道路線「ML-1」事業で中国人熟練工の賃金はパキスタン人より1300%高いと指摘したのに加え、中国からの約90億ドルの巨額融資へも効果検証を求めた。現時点で検証されなければ、パキスタンが重い債務を負うのではないかと懸念する。
一方で、一帯一路の再開はリスクに値すると見る強気の声もある。イスラマバード在住の政策アナリスト、ハッサン・ハワー氏は「世界は急速に変化しており、パンデミック(世界的な大流行)が収束する頃には違う姿になっている。投資流入は縮小し、中国は資本を持つ数少ない国になるだろう」とし、CPECの経済特区はパキスタンに経済発展をもたらすと指摘する。
今回の事業再開が今後の中国の一帯一路を占うとの声もある。クーグルマン氏はCPECが一帯一路の中で最も具体的で活発な事業だと見ており、その発展が一帯一路の将来を左右すると考えている。CPECが感染収束まで延期されると、一帯一路自体が停止せざるを得なくなるとし、事業が進めば将来の一帯一路事業の前向きな前兆になるとする。
英文はNikkei Asian Reviewに掲載しています。(https://s.nikkei.com/352ccr5)