侮辱罪に懲役刑 法務省、ネット中傷対策で諮問へ
深刻化するインターネット上の誹謗(ひぼう)中傷の対策を強化するため、法務省は刑法の侮辱罪の法定刑を見直し、懲役刑を導入する方針を固めた。厳罰化に伴い、公訴時効も現行の1年から3年に延びる。犯罪抑止や被害救済につなげる狙いで、9月中旬に開かれる法制審議会(法相の諮問機関)に法改正を諮問する。
具体的事例を示して人の社会的信用をおとしめる名誉毀損罪(3年以下の懲役か禁錮、または50万円以下の罰金)に比べ、侮辱罪は事例を示さない悪口などに適用され、悪質性は低いとされる。現行の罰則は、拘留(1日以上30日未満の拘置)または科料(1000円以上1万円未満)。公訴時効は1年だ。
2020年5月にプロレスラーの木村花さん(当時22)がSNS(交流サイト)で多数の誹謗中傷を受けた後に死去した問題では、悪質な投稿をした2人の男が侮辱容疑で書類送検されたが、いずれも科料9000円の略式命令にとどまった。
他にも木村さんに対する誹謗中傷の書き込みは約300件あったが、捜査は約9割を不問としたまま終結した。侮辱罪の公訴時効の短さが刑事責任を追及する上で壁になったとみられ、侮辱罪の厳罰化を求める声も上がっていた。
法務省は20年6月、プロジェクトチームを設置。侮辱罪の罰則のあり方などの議論を重ね、現行の法定刑に、1年以下の懲役か禁錮、または30万円以下の罰金を追加し厳罰化する案を固めた。近く法制審に諮問する。罰則強化に伴い、時効が3年に延びるため、これまでより摘発につながる可能性が高まるとみられる。
これまでの議論では、「表現の自由」の観点から行き過ぎた規制を懸念する慎重論もあったというが、既存の侮辱罪はネット上の中傷を想定していない。同省幹部は「重大な人権侵害を引き起こしかねないSNSなどでの誹謗中傷が相次いでいる現状に見合った規制が必要」と話す。
SNSなどを通じた人権侵害事案は近年、深刻化している。プライバシー侵害や名誉毀損など、同省が20年に処理したネット上の人権侵犯事件は1917件。10年前の624件から3倍超になった。投稿者の特定や訴訟には時間や費用がかかることもあり、被害を訴えることなく、泣き寝入りするケースも多いとみられる。
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。
この投稿は現在非表示に設定されています
(更新)