原油、供給懸念で先高観 イラン産禁輸で半年ぶり高値
原油価格が上昇している。米国のイラン産原油の禁輸措置を受け、ニューヨーク原油先物は約半年ぶりの高値を付けた。ベネズエラなど政情不安の産油国の供給減も重なり、価格上昇を見越した投機マネーが流入する。トランプ政権は原油高を抑えたい考えだが、サウジアラビアなどの供給増には時間がかかる。不透明さを増す国際情勢で、原油の先高観が広がりつつある。
ニューヨークの原油先物は日本時間23日午後の時間外取引で一段高となった。一時1バレル66.14ドルと昨年10月末以来、約半年ぶりの高値を付けた。
主因は米国の禁輸措置だ。トランプ政権は22日に日中韓と台湾、インド、トルコ、イタリア、ギリシャの8カ国・地域について、イラン産原油の輸入を認めていた特例措置を5月2日に打ち切ると発表した。イランとの取引を継続した企業には米政府から制裁金を科されたり、米市場でのビジネスが禁じられたりする恐れがある。
イラン産原油は中国が日量約40万バレル、インドが約30万バレルを輸入しているとみられる。両国でイラン産原油の輸出の過半を占める。中国は米国が決めた禁輸措置に反発。自国製のモノとイラン産原油の「物々交換」や人民元を介した取引で輸入を継続する可能性がある。インドはサウジアラビアなど複数の産油国と輸入量引き上げの契約を交わした。
国際エネルギー機関(IEA)によると、3月のイランの輸出量は日量約110万バレル。すべての国が輸入を停止すると、世界の総需要の1%にあたる原油を代替調達する必要が出てくる。
不足分を補う産油国として有力なのはサウジアラビアだ。原油安を受けて、1月に始まった石油輸出国機構(OPEC)と非加盟の産油国による協調減産を主導している。3月の生産量は日量982万バレルと、目標を上回る減産を実施した。
余剰生産能力は日量220万バレルと、OPEC全体の余剰能力の6割強に達する。同国のファリハ・エネルギー産業鉱物資源相はイランの供給減を受け、適切な供給を確保すると表明した。アラブ首長国連邦(UAE)にも増産余地がある。
計算上は中東産油国の増産でイランの輸出減を賄える。ただ仮に増産を決めても「輸送や精製には数カ月かかり、夏場のガソリン需要期を前に供給不足感が高まりやすい」(石油天然ガス・金属鉱物資源機構の野神隆之首席エコノミスト)。産油国ベネズエラやリビアも政情不安から原油の供給が細り、供給不足がすぐに解消されるメドは立っていない。
世界経済が持ち直し、原油需要が回復するとの見方も原油高を支える。投機マネーも活気づき、ニューヨーク市場での投機筋の原油先物の買越高は5億1500万バレルと半年ぶりの高水準にある。
原油高は幅広い産業に影響を与える。国内では樹脂大手のプライムポリマー(東京・港)が食品包装フィルムに使うポリエチレンなどを5月21日納入分から1キロ当たり10円(4~5%)以上引き上げることを決め、顧客と交渉に入った。値上げの動きが広がれば、樹脂加工メーカーなどの業績を圧迫する可能性がある。
(ニューヨーク=後藤達也、高倉万紀子)