スタバやマックで進む「事前注文」、新型コロナ拡大で
日経ビジネス
注文から決済までを事前にウェブ上で完結させるモバイルオーダー。2019年からマクドナルド、スターバックス、吉野家と外食大手が相次いで導入を進めてきたが、新型コロナウイルスの感染拡大が期せずして普及の追い風となっている。
3月中旬のお昼どき、虎ノ門ヒルズにあるサラダ専門店「クリスプ・サラダワークス」に訪れた女性は店員にスマホの画面を見せ、事前に注文していたサラダを受け取って足早に店を去った。「財布を出す必要もなく、商品をすぐに受け取れる。新型コロナウイルスの感染拡大が続く中でも、人混みを避けられるので感染リスクも軽減できると思う」。週に1度はこの店を訪れるという40歳代の女性はモバイルオーダーの利点をこう語る。
クリスプ・サラダワークスは都内に14店舗を構えており、モバイルオーダーからの注文は注文全体の約3割に達するという。モバイルオーダーシステムはクリスプ・サラダワークスの創業者でもある宮野浩史氏が社長を務めるカチリが開発した。カチリは中小の飲食店を中心にモバイルオーダーシステムのサービスを提供しており、台湾カフェの春水堂(チュンスイタン)もグループ23店で導入している。
「2月以降、モバイルオーダーシステムへの問い合わせがそれまでの数倍に増えた」と宮野氏は話す。問い合わせ急増のきっかけとなっているとみられるのが、新型コロナウイルスの感染拡大だ。「店員との会話や長い行列など、人との接触を避ける風潮が広がり、店内飲食への風当たりが強まっている。一方でモバイルオーダーやデリバリー経由の注文は人との接触を避けられるとあってか、注文の減少幅が小さい」(宮野氏)。
店内飲食は避けたいが、テークアウトであれば、という消費者は多そうだ。しかし、混雑の緩和と店内での滞留時間の短縮化が課題となる。ランチやディナーのコアタイムには行列に並ぶ時間を要するので、短時間とはいえ他人との接触を避けられないことがテークアウトの難点だ。その点、モバイルオーダーは注文から決済までをオンラインで完結させることで、列に並ぶ必要はないし、店に着いた頃には商品が用意されているので店内にいる時間も短時間に抑えることができる。
こうした動きは外食大手でも起きている。これまで牛丼チェーンでは、店内飲食と持ち帰りの比率が7:3程度だった。だが、吉野家の広報担当者は「新型コロナウイルスの影響か店内飲食の客が減り、持ち帰りが増えている。これまで3割弱だったテークアウト客の割合は今や4割前後だ」と話す。吉野家は2月からスマホで時間を指定して持ち帰り商品を受け取れる「テイクアウトスマホオーダーサービス」を開始しており、「今後もテークアウトの引き合いは増えていくだろう」(広報担当者)とみる。
日本マクドナルドは1月末までに国内約2900店のうち2700店舗にモバイルオーダーを導入済みで、オペレーション&テクノロジー本部によると利用客からは「注文時に人との接触を避けられるのがいい」との声も上がっているという。
吉野家のモバイルオーダーシステムの開発に携わったショーケース・ギグの新田剛史CEOは「これまで飲食業界は人手に頼りすぎていた。ファストフードで注文を取るなど、過剰で非効率な接客は求められているのだろうか。いずれにせよ、新型コロナウイルスの影響で今年はモバイルオーダーへの流れが加速することは確かだろう」と話す。
モバイルオーダーの浸透に象徴されるように、コロナショックは接客や店舗運営など日本の外食産業に根付いてきた「常識」を変えてしまう可能性をはらむ。「かつては接客を重要視するあまり店員がマスクを着用することは異例だったが、今はそれが常識のようになっている。コロナショックは日本の外食に大きな変革をもたらすかもしれない」。ある外食関係者はこう語っている。
(日経ビジネス 神田啓晴)
[日経ビジネス電子版2020年3月17日の記事を再構成]
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