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「神の粒子」に迫る浜ホトイズム

「未知未踏」の半世紀、支える「収支報告書」

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浜松ホトニクスは宇宙の謎に迫るニュートリノだけでなく、最近では「神の粒子」と呼ばれる「ヒッグス粒子」の発見に貢献する光センサーを開発したとして、世界の注目を集めている。光関連部品を主力とする売上高1000億円の中堅企業ながら、なぜ世界を驚かす技術を次々に生み出せるのか。その謎を探ると、2つのキーワードが浮かび上がってくる。1つは「人類未知未踏を目指せ」という経営理念。もう1つは社員たちに毎月提出させる「収支報告書」だ。

浜松ホトニクスの強さの源泉は何か。そんな素朴な疑問を、半世紀にわたって同社の開発・製造部門を統括してきた大塚治司副社長(77)にぶつけてみた。大塚氏は「難しい質問だね」と前置きしたうえで、こう話し始めた。「まず昼馬輝夫という経営者の存在が大きい。社内で常に『人類未知未踏を目指せ』と言い続け、その信念を一度も曲げなかった」。

昼馬輝夫会長、85歳。1953年に同社が「浜松テレビ」として生まれた時からの中心メンバーで、78年から31年もの間社長を務め、同社の「中興の祖」とされる人物だ。現在は病気療養中で直接話を聞くのは難しい。ただ社長時代の「語録」を振り返ると、技術にかける強い思いが強烈に伝わってくる。

「できねえと言わずにやってみろ」――。

手先が決して器用でなかったという昼馬氏は、営業担当として大手分析機器メーカーや著名な科学者のもとを日参し、世の中にない製品の注文を受けてきたという。開発現場の社員は「そんなの無理だ」という事を懸命に説明するが、昼馬氏は必ずこの言葉で一蹴した。

そして昼馬氏は「人のまねは絶対するな。世界でナンバー1を目指せ」と現場の社員たちを鼓舞し続けた。昼馬氏は日本が明治維新以降、先進国から多くの文化・文明を吸収したことそのものを「物まね」と批判したわけではない。

「物まねをするならとことんやればよかった。日本は欧米から切り花を持ち込んだ。きれいな部分だけをちょこんと切り取って花瓶に生けて、咲いた、咲いたと喜んだだけ。種からまいて咲かせて、真理を追究すれば、日本独自の産業を興すことができたはずなんだ……」。社員たちに常々そう話していたという。

昼馬氏の言葉に刺激されながら、現場の社員はものづくりに没頭する。「不思議なもので15、16歳の中学出たての若い社員が、ある日突然ものすごい製品を作りだす。専門教育は何も受けていないのに、20代にはない鋭い五感で成功をたぐり寄せる。何故できたのかは説明できないから、大学卒の社員が後付けで根拠を導き出し顧客に説明する。そんな作業の繰り返しだった」。大塚氏は設立当初の勢いある現場の様子をこう表現する。

 光電子増倍管にオーロラ観測用カメラなど、顧客をうならせる製品が次々と生まれ始める。昼馬氏の掛け声も「世界でナンバー1」から「人類未知未踏の追求」へと強まる。ほどなく「未知未踏」は同社の経営理念として定着した。

浜松ホトニクスの存在が光関連業界で大きくなると、競合していた大手電機メーカーは撤退していった。そして1979年、東京大学の小柴昌俊氏から突然舞い込んだのが「素粒子ニュートリノ」検出に使う大口径の光電子増倍管の開発依頼だった。

大塚氏はその時の事を鮮明に覚えているという。「(昼馬)社長がまた大変な仕事を持ち帰ってきたなと思ったけれど、不思議にできるかもしれないという感覚があった。いろんな苦労を重ねて社員にも自信が付いていて、社長もその雰囲気を感じていたから、仕事を受けてきたのだろう」。

現場は期待を裏切らなかった。試行錯誤の末に生まれた直径20インチに及ぶ増倍管を量産し、観測施設に完納。小柴氏のニュートリノ観測成功に貢献する。それを境に、同社の評価は世界中で一気に高まる。世界各地の最先端研究所から開発依頼が相次ぐようになった。「ヒッグス粒子発見に貢献できるのも、小柴先生の依頼に応えることができたから」と大塚氏は振り返る。

しかし、昼馬氏がどんなカリスマ経営者であろうと、言葉の力だけでこれだけの開発力を引き出すことはできなかった。昼馬氏自身、未知未踏を目指すということの難しさを「闇夜の海にボートをこぎ出すようなもの」と表現している。誰も行ったことがない領域だからこぎ出す方向さえ決められないわけだ。「悩んで何もできなくなる社員もいた」(大塚氏)。そのくらい「未知未踏」を企業活動に落とし込むのは難しかった。

昼馬氏は社員を言葉で刺激しながら、大塚氏とともにある1つの試みを続けていた。「未知未踏」に戸惑う社員たちに収支報告書の提出を義務付けたのだ。報告書の作成担当は、44ある製造部門の部門長。最先端の研究を続けながら、電気代や原材料費、外部への加工委託費など常にチェックする。

コスト意識を徹底させるために「社内通貨」も導入し、部署間のやりとりを目に見えるようにした。そして毎月、自分たちが生み出した製品の売り上げと対比する。収支を合わせるにはコスト管理を徹底するだけでなく、製品を作って稼がないといけない。収支報告書を義務付けた最大の狙いは実は、ここにあった。

 「例えば顧客の要望をしっかりと聞き出し、今の製品の改善改良することも未知未踏。顧客に喜んでもらえる商品を世に出し、利益を得るから未知未踏を追い続けることができる」と大塚氏。壮大なテーマをいきなり追うのではなく、目の前に存在する未知未踏の階段を1つ1つ上ることの大切さを収支報告書によって無意識のうちに社員に理解させた。

44の部門長はさながら、ベンチャー企業の経営者のように収支にこだわる。経営感覚がないと判断されれば研究予算を削られる可能性もあるからだ。結果的に同社の連結売上高営業利益率は2割前後を維持している。2011年9月期の同社の連結営業利益は218億円。その半分は研究開発費に回されるから、失敗を繰り返しながら未知未踏を追い続けられる。

基本的に「特別扱い」の社員はいない。ノーベル賞級の研究を担当する社員にも常に収支を問い続ける。給与水準も決して高くないし、成果主義も原則導入しない。「どんな成果も先人が積み上げた物があるから到達できる。一人の手柄ではない」という考え方からだという。

欧州合同原子核研究機関(CERN)が進める「ヒッグス粒子」の研究で使用されているセンサーなどを開発した担当者の声を聞いても、こうした「浜ホトイズム」が浸透していることがわかる。

石川嘉隆・固体事業部固体第2製造部第30部門部門長は「ようやく世の中のためになったと実感できてうれしい」と話し、「医療用の検査装置に応用され、収益に貢献している」と付け加えた。山村和久・同部門長代理も「10年越しのプロジェクトの成果が出て、感慨深い。今はすでに新たな10年越しのプロジェクトに挑戦している。試行錯誤の繰り返しだが、予算内でできるよう工夫している」と話した。

愚直に、謙虚に、未知未踏の領域を一歩一歩上り詰めてきた浜松ホトニクス。輝かしい研究成果で世界中から注目される中でも、同社の開発現場に、「おごり」は全く感じられない。「地位や名誉、高報酬よりも、好きな研究を続けられることが幸せと、心から感じている社員が多いからでしょう」と、ある同社幹部は語った。2009年に輝夫氏の後を継いだ長男の昼馬明社長(55)も浜ホトイズムをうまく継承しているようだ。

「規模」を追い求めた大量生産型の経営システムとは一線を画し、夢のようなビジョンをぶち上げるベンチャー企業の派手さもない。半世紀にわたって未知の技術と向き合い続けてきた同社の経営スタイルにこそ、日本の産業界が閉塞感から抜け出すヒントがあるのではないか――。自然豊かな浜松にたたずむ事業所で、開発に没頭する技術者の姿を見ていると、不思議とそう思えてくるのだ。

(浜松支局長 大西穣)

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