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まさかコールドスリープとは!?

先端技術から生まれた新サービスが経済や社会の姿を大きく変える様子を描いた日経電子版の連載企画「Disruption 断絶の先に」。これまで量子コンピューターや、血管内を治療する極小ロボットを取り上げてきましたが、今回のテーマはまさかのコールドスリープ(人工冬眠)です。

この連載、今まで知らなかった技術に「こんなものがあるのか」と驚かされるだけでなく、それが実現すると社会にどのような影響があるかも考えさせられ、SFの世界が少しずつリアルになってきていることを実感します。とはいえ、さすがにSFの世界だけと思っていた人工冬眠が登場するとは。

SFの物語を成立させる舞台装置

記事では、将来、新たな薬や医療が開発されたときに目覚めることを期待し、遺体を冷凍保存するロシアの企業のサービスや、サルなどの動物の「冬眠」の研究などが登場します。まだ夢物語というのが正直なところですが、科学技術の進歩が人々に期待を抱かせつつあるようです。

人工冬眠はSFの世界では定番の技術です。アインシュタインは相対性理論で時間の進み方は一定ではないことを予言しましたが、現実には多くの人にとって時間は「変えられないもの」。光速でも数万年かかる宇宙に行く物語を成立させるためには、空間をゆがめる「ワープ」や、時間の進み方を止める人工冬眠といった舞台装置が欠かせません。

人より長く生き、多くを見ること

人工冬眠が出てくるSFで私が深く記憶に残っているのは、手塚治虫氏の漫画「火の鳥 望郷編」です。恋人と無人の惑星に移住した主人公の女性が、事故で恋人を失いますが、星を繁栄させるため、身ごもっていた子どもやその孫らと人工冬眠を繰り返しながら近親婚をして子孫を増やしていきます。

主人公の女性は人工冬眠から目覚める度に星が豊かになっていく様を目にします。その後、望郷を募らせた地球への帰還を果たしますが、美しくも悲しい最期を迎えます。普通の人生よりも長く生き、通常の人より多くのものを見たことが幸せだったのかどうか。私も解は見い出せてはいません。

人工冬眠が実現したら…。記事の中にあるように、あと少しの時間がないばかりに救えなかった命を助けられるなどの恩恵はあるかもしれません。一方で、人には時間という制約があるからこそ、一度限りの生に精一杯の力を注ぎ、輝きを放てるのでは、という思いもよぎります。

みなさんはどう考えますか。

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先端技術から生まれた新サービスが既存の枠組みを壊すディスラプション(創造的破壊)。従来の延長線上ではなく、不連続な変化が起きつつある現場を取材し、経済や社会、暮らしに及ぼす影響を探ります。

(日本経済新聞社デジタル編成ユニット 太田順尚)