高齢化の街にAIタクシー 茨城・大子町で実験始動
高齢化率が5割に迫る茨城県大子町で、最新技術を使った公共交通の実証実験が始まった。協力するのはNTTドコモ茨城支店(水戸市)と茨城日産自動車(同)。2019年の台風19号やコロナ禍など逆風が続く町に、官民乗り合いのAI(人工知能)タクシーが期待を乗せて走り出す。
「勇気づけられる実験。AIは苦手という高齢者も便利で優しいと思う乗り物になってほしい」。実証実験が始まった1日、文化福祉会館の式典であいさつに立った高梨哲彦町長は強調した。
目玉は無料のAI乗り合いタクシーだ。インターネットで予約を受け、運行ルートを設けずAIで最適ルートを割り出して走る。火曜と木曜は町民を中心部へ、土曜と日曜と祝日は観光客を観光地へ、金曜と土曜と祝日前日の夜は飲食の客を店へ運ぶ。町民は夜を除き電話でも予約できる。
システムを提供したNTTドコモ茨城支店は水戸市でも2~3月の「梅まつり」期間にAIバスの実証実験を行った。今回は21年9月30日までという長丁場の試み。中山晴之支店長は「広大な大子町に柔軟な交通手段を提供し、経済活性化につなげたい」と述べた。
茨城日産自は「キャラバン」「セレナ」「リーフ」の車両を提供した。加藤啓進会長は「非常時の電源にも使える。よりよい生活支援になってほしい」と期待する。実証実験では15分当たり100円から利用できる無人のカーシェアリングも展開。運転免許証をリアウインドーのカードリーダーにかざせばドアが開き乗り込める仕組みだ。
茨城県の市町村の中でも大子町の人口に占める65歳以上の比率は46%と最も高い。運転免許証を返納する高齢者も増えるなか、公共交通の必要性は一段と高まる。
1年前の台風19号では多くの家屋や店舗が浸水し、買い物や通院に不便さを感じる町民は多い。実証実験では被災地区や応急仮設住宅と病院や商業施設を結ぶ臨時の無料巡回バスも月曜と金曜に1日2往復走らせる。
同町は台風で浸水した現庁舎を高台の東京理科大学の旧研修センターグラウンドに移転し22年春にも竣工させる。しかし町中心部から離れた場所にあるため、交通の足の確保は行政サービスの面でも中期的な課題だ。
大子町は日本三名瀑(ばく)の一つ「袋田の滝」などを有する観光地だが、移動するためのバスも少ない。台風被害に遭ったJR水郡線は袋田~常陸大子駅間がなお不通。公共交通の活性化は観光面の意義も大きい。
高齢化と格闘する同町の姿は多くの地方の将来図といえる。利便性や収益性など課題は多いが、官民でスピード感を持って克服できれば先行事例となる可能性もある。
(水戸支局長 竹蓋幸広)