「中所得国のわなから抜け出す」タイ首相が施政方針演説
【バンコク=村松洋兵】民政復帰したタイの国会で25日、プラユット首相が施政方針演説を実施した。「(先進国入りを前に経済成長が鈍る)中所得国のわなから抜け出すために国を発展させる」と述べ、産業の高度化を目指す考えを示した。貧富の格差を是正するため、社会保障を手厚くする意向も表明した。今後、連立政権を組む19党の選挙公約の実行に向けた調整に入るが、財源の確保が課題となる。
施政方針には「未来に向けた経済基盤づくり」や「福祉制度の改善」など緊急に取り組む12項目を盛り込んだ。プラユット首相は経済政策に関して「スマートシティーや次世代通信規格5Gのインフラ整備に民間投資を呼び込む」と述べた。
タイは自動車や電機など外資系製造業を誘致して経済成長してきたが、新産業の育成は遅れている。新内閣は軍政時代の政策を継続し、バンコク東方の経済特区「東部経済回廊(EEC)」の開発を推進する。同地区に高速鉄道や通信のインフラを整え、次世代自動車やデジタル関連産業の振興を目指す。
EECには日系製造業が集積しており、インフラ整備が進めばビジネスの追い風となる。「ここ数年タイ経済は安定しており、政策継続はありがたい」(トヨタ自動車タイ法人の菅田道信社長)といった声も聞かれる。
プラユット首相は「国民の生活の質を向上させる」とし、社会保障を充実させる意向も示した。タイは貧富の格差が大きく、政治対立の一因になってきた。政府は高齢者や子供、低所得者に対する給付金の支給を拡大する方針だ。
個人所得税の減税も検討する。年収によって5~35%の税率を一律で10%引き下げる案などが浮上している。だが、一連の政策を実行するには年間3兆3000億バーツ(約11兆5500億円)の予算が必要と見込まれる。野党は「予算の裏付けがない」と批判を強める。
プラユット首相は下院で過半数を確保するため、計19党からなる連立政権を組んだ。施政方針には憲法改正に向けた調査や、医療用大麻の自由化など、連立相手の選挙公約も盛り込まれた。タイ商工会議所大学のタナワット准教授は「施政方針は連立相手に配慮して寄せ集めの内容になった」と指摘する。
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