フェイスブック、大胆な事業転換 金融ノウハウどこに
先読みウェブワールド (藤村厚夫氏)
「仮想通貨(暗号資産)」「eコマース」「暗号化通信」と書くと、新たなベンチャー企業の話題と思われそうだ。だが、そうではない。最大手SNSをはじめ、巨大サービスを傘下に持つIT(情報技術)の巨人、米フェイスブックの話題だ。
世界のデジタル広告市場をグーグルと二分するフェイスブックだが、肥大化した広告事業は評判が悪い。保有する膨大なユーザーデータと相まって、世界の政治を揺り動かしかねないと危険視する声が高まる。そんな圧力の下で、フェイスブックから大胆な業態転換方針が飛び出した。
「広場づくりから、居間づくりへ」。マーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は3月、「プライバシーに焦点を当てたソーシャル・ネットワーキングのビジョン」を突如打ち出した。だれもが参加できるオープンな場での情報交流から、親しい知人同士で閉じた安全な場づくりへと転換を宣言したのだ。
具体的には、暗号化され、同社さえ内容に関知できないメッセージをユーザー間でやり取りするのが中心になる。メッセージは1日たてば消滅する。漏えいや、投稿が過度に拡散して社会に影響を与えることを避ける。
この転換で収益源をどうするのかが注目される。これまでは数多くの人々に投稿を促し広告を表示してきた。ユーザーデータを活用したプロファイリングで広告効果を高めたが、企業の評判を下げる一因となった。高収益の広告事業を手放せるのだろうか。
取りざたされるのが、金融サービスや商取引分野への進出だ。米ウォール・ストリート・ジャーナルは5月、「フェイスブックは仮想通貨を用いた決済システムを構築中」と報じた。
「プロジェクト・リブラ」という仮想通貨を用いた個人間の送金サービスやeコマースの開発プロジェクトを、1年以上前から進めているという。英BBCによると、ペイパルの元幹部や多くのエンジニアを採用し、企業の買収や提携交渉を続けている。
これほどの転換を、巨艦となったフェイスブックは成し遂げられるのだろうか。
実はグループに教師役を抱えている。写真共有サービスのインスタグラムでは、写真や動画、テキストを一体化した「ストーリー」が大人気。広告も組み込め、グループの好業績をけん引する。昨年からeコマースも手がけ、ストーリーから1タップで商品が購入できる。対話アプリのワッツアップは強固に暗号化されたメッセージ機能を持ち、当局にも開示しない。
問題はフェイスブック周辺で経験がない金融サービスだ。小口資金を安価に移転する需要は、銀行サービスが充実していない新興国はもちろんキャッシュレス社会をめざす日本などでも大きい。操作の容易さと安全性が両立すれば、寄付やチップでファンクラブのような新たなビジネスを生む可能性もある。
中国では「微信(ウィーチャット)」などSNSでの決済サービスが発達し、日本でも数々のサービスが動き始めた。フェイスブックが取り組むとみられる仮想通貨の応用が先行陣営をしのげるのか。高い壁が待ち構えている。
[日経MJ2019年6月9日付]